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» 2019年12月13日 07時00分 公開

コンピュータで“錯視”の謎に迫る:大きさが左右で変わって見える、不思議な「ポンゾ錯視」 見つけたのは“ポンゾさん”ではない? (1/4)

早稲田大学・新井仁之教授が解説する錯視の世界。第13回は学術的推論によって見つけられた錯視を紹介。錯視の学術的研究の面白さの一端をお伝えします。

[新井仁之,ITmedia]

 「最初に言ったのは私なのに……」

 会議でいいアイデアを発言できたと思ったら、いつの間にか“自分の後に発言した人の意見”ということになってしまっていた。こんな経験はありませんか。

 実は錯視の世界でもそんなことが起こりました。それが「ポンゾ錯視」です。ポンゾはマリオ・ポンゾ氏(1882-1960)というイタリアの心理学者の名前ですが、ポンゾ錯視はポンゾ氏が見つけたものではないことが知られています。

 それでは、“最初に見つけた”のは誰なのでしょう。今回はコンピュータによる錯視の解析からは離れますが、最初に言った人を明らかにした筆者らによる調査([A])の結果を紹介しつつ、ポンゾ錯視の源流をたどってみたいと思います。

連載:コンピュータで“錯視”の謎に迫る

あなたが今見ているものは、脳がだまされて見えているだけかも……。この連載では、数学やコンピュータの技術を使って目に錯覚を起こしたり、錯覚を取り除いたり──。テクノロジーでひもとく不思議な「錯視」の世界をご紹介します。


ポンゾ錯視の第一発見者は誰か?

 始めにポンゾ錯視とは何かを紹介しておきましょう。図1をご覧ください。二つの同じ大きさの円が扇の中にありますが、右の円が左の円よりやや大きく見えませんか。これがポンゾ錯視です。

photo 図1「ポンゾ錯視」二つの同じ大きさの円が扇の中にありますが、右の円が左の円よりやや大きく見えませんか

注:錯視の見え方には個人差があり、人によって錯視が起こらないこともあります


 図1の錯視がポンゾ錯視と呼ばれるのは、ポンゾ氏が1912年の論文([P])で、図1の絵を紹介し、この錯視に言及したことに由来します。それ以後、いつの間にか図1の錯視はポンゾ錯視と名付けられ、さまざまな本や論文でも「ポンゾ錯視」という名称が記されるようになりました。その結果、「ポンゾ錯視はポンゾが発見した」という通念のようなものが生まれてしまったのです。

 そのような状況の中で、心理学者の北岡明佳氏はWebサイト(錯覚ニュース[K])で、リップス氏という人の著書(1897年、[L])に、図2のようなポンゾ錯視が載っていることを指摘しました。

photo 図2 リップス氏の本([L])の図を元に描画

 図2の左側の図に縦線が2本ありますが、右の方が長く見えます。一方、右側の図では、右の縦線より左の縦線が長く見えます。

 筆者自身は北岡氏の記事([K])によって初めてポンゾ錯視がポンゾによるものではないことを知りました。同氏の記事によれば、ヴィカリオ氏も独自にこれを論文[V1]の中で指摘していたそうです。実際に論文[V1]の中で、同氏はリップス氏の本に「およそ15年後に発見されるポンゾ錯視を見ることができる」(筆者訳)と述べています。

 さて、そうなると沸き起こってくる疑問は「ポンゾ錯視の第一発見者はリップスなのか、あるいは別の誰かなのか?」ということです。筆者と共同研究者の新井しのぶは、この疑問について調べることにしました。

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