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AIが瞬時に株取引、為替暴落の危険も 金融業界で進むAIの取り組みよくわかる人工知能の基礎知識(2/5 ページ)

» 2019年12月13日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

AIが瞬時に株取引、不正検知もお手のもの

 一般的に、金融業界には銀行業・保険業・証券業などが含まれる。いずれも金銭的な価値の取引が行われる分野だ。例えば、銀行なら預金や融資、保険なら保険商品の販売や保険金の支払い、証券なら有価証券の売買や売買の仲介などを行っている。

 こうした金融業界の中核にあるさまざまな「取引」をAIで進化させようと、各社が取り組んでいる。

 取引の進化は、「高度化」「不正検知」という2つの方向性に大別できる。

 まずは、高度化の例を考えたい。例えば、AIに株取引を任せたり、将来の株価を予測させ、より利益の出るような取引をさせたりといった具合だ。

 高度化を目指すAI活用については、米ゴールドマン・サックスの事例がよく知られている。同社ではかつて、数百人のトレーダーが株式の売買に従事していたが、自動取引アルゴリズム採用後は、トレーダーは数人にまで激減した。その結果、現在では全社員の3分の1がエンジニアになっているという。

 同様の取引自動化は業界全体で進んでおり、既に論点は「AIに取引を担当させるべきか」ではなく、「いかに他社より優れた取引アルゴリズムを構築するか」に移っている。

 「そもそも取引をすべきかどうか」の判断をAIに任せ、取引を瞬時に低コストで済ませる取り組みもある。

 例えばみずほ銀行は19年4月、国内メガバンク初の「法人融資へのAI活用」に踏み切ると発表(PDF)。対象は中小企業で、口座への入出金履歴やネット販売の取引履歴などをAIに分析させ、融資の可否を判断させるというものだ。これによりみずほ銀行は、従来1週間程度掛かっていた審査期間を、最短で2日間に短縮できるとしている。

みずほ銀行より(PDF)

 不正取引の検知にAIを活用する例もある。不正取引は金融機関にとって直接的なダメージをもたらすものであり、多くの企業がこの問題に取り組んできた。

 例えば、これまで日本国内だけで使われてきたクレジットカードがあったとして、それが突然海外で使われた場合に、何らかの不正が発生しているのではないかと判断する――といった具合だ。「過去の大量データに基づいて、取引の異常がないかどうか検知する」というアプローチは、現在のAIの主力である機械学習とも親和性が高い。

 不正送金検知システムについては、住信SBIネット銀行とNECが開発に着手している。これは、AIを活用して不正送金の疑いが高い取引を自動検知するというもの。既知の不正送金を全て検知する実験に成功し、同行で全面的に導入することが決定した。AIを不正送金の防止に活用する例は国内初で、同行によると行員の作業量を9割以上削減できるとしている。

 また住信SBIネット銀行は19年10月、AIを住宅ローン審査に応用し、ローンの不正利用を検知するアルゴリズムを導入したと発表した。こうした領域の拡大は、今後もさらに続くだろう。

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