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AIが瞬時に株取引、為替暴落の危険も 金融業界で進むAIの取り組みよくわかる人工知能の基礎知識(3/5 ページ)

» 2019年12月13日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

顧客対応もAIで チャットbotが投資アドバイスも

 上記のような取引は、金融機関の内部での業務となるが、当然ながらその取引を依頼した顧客が存在する。証券取引であればその証券の売買を依頼した人物、ローン審査であればローンを申請した人物という具合だ。どのように顧客とコミュニケーションし、継続的な関係を築くかは、金融機関にとって取引そのものの改善と同じくらい重要なテーマだ。こうした領域でも、AIを使った改善が模索されている。

 例えば、本連載の第9回で紹介した、スウェーデンの銀行SEBが導入した米IPSoft製のバーチャルエージェント「アメリア」。これはチャットbotの一種で、同社のWebサイト上で顧客からの質問に自動回答する。

 現在では100万人以上の顧客と直接やり取りしており、顧客の言葉に込められた意図を85%の精度で読み取れるようになったそうだ。さらに連載第12回で紹介した米Bank of Americaの「エリカ」のように、スマートフォンアプリとして顧客に提供され、音声でコミュニケーションするAIも登場している。

 証券業では、いわゆる「ロボアドバイザー」が流行している。これはWebサイトやアプリを通じて顧客への投資アドバイスをしたり、事前に設定された条件の下、顧客に代わって資産運用したりするソフトウェアだ。

 最近はロボアドバイザーも進化しており、人間よりも高度できめの細かいサービスの提供を目指す動きも出てきている。

 南アフリカ発のデジタル銀行TymeBankは、カナダに拠点を置くFintech企業のFinn.aiと共同でチャットbot「MAX」を開発している。これは若年層をターゲットとしたサービスで、「あなた個人のための金融フィットネス・コーチ」というキャッチフレーズを掲げている。フィットネスのように金融に関する基礎知識、つまり金融リテラシーを鍛えましょうというわけだ。

 南アフリカは若者が非常に多い国で、15〜24歳の若者層が人口に占める割合は約2割に達する。彼らの多くは銀行口座を持っておらず、金融リテラシーも低い。そうした背景から、TymeBankは若者でも使いやすい、教育用チャットbotを用意した。

 MAXは「支店/ATMの場所を知りたい」といった単純な質問から、「今月の入出金額を知りたい」「クレジットスコアとは何か、どのように評価されるのかを知りたい」といった高度な質問まで、幅広いテーマについてチャット形式でユーザーと対話する。

 さらに、ユーザーのクレジットスコアを参照し、それが低ければなぜ低いのか、どうすれば改善できるのかを、個人の状況に合わせて教えてくれるようになっている。どのようなアドバイスを与えるかについては、実際に南アフリカにおける過去の関連データをAIに与え、学習させているそうだ。

 日本でも三井住友海上火災保険が、顧客の保険内容をAIで分析し、最適な保険を提案するサービスを20年2月に始めると発表している。このように単なる人間の代替ではない、より優れた顧客とのインタフェースを実現する手段として、AIが活用されるようになってきている。

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