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「売ってナンボ」の風潮に危機感、データドリブンな居酒屋に ワタミがクラウド型ERPを導入する理由(1/2 ページ)

» 2019年12月20日 12時53分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 居酒屋チェーンを展開するワタミはこのほど、クラウド型ERP(統合基幹業務システム)を導入し、データを活用した店舗運営に乗り出していることを明らかにした。2018年度から段階的に着手しており、20年度に本部の財務会計システムを置き換えた後、22年度に全店への展開を完了する計画という。店舗や地域ごとの売上や利益率、商品の売れ行きなどのデータをリアルタイムで収集・分析し、素早い戦略立案につなげる考えだ。

 社内システムを抜本的に見直し、クラウド型ERPを本格的に導入するのは飲食業界でも珍しい取り組みという。そんな中で導入を決断できた理由を、ワタミの若林繁氏(経営企画本部 IT戦略部 部長)に聞いた。

photo ワタミの若林繁氏(経営企画本部 IT戦略部 部長)

 若林氏は取材に対し「この業界は“売ってナンボ”の世界。当社も(売上を重視する一方で)システムへの精査が遅れている部分があった」と説明する。

 「社内にはレガシーシステムが数多く残っており、手入力による集計ミスが起きた時などは、原因究明に時間がかかる時もあった。ERPをクラウド型に切り替えることで、経営陣が数字を見ながら戦略を策定するデータドリブンな文化に変えたいと考えた」(若林氏、以下同)という。

インフォアジャパンの「Infor CloudSuite Food & Beverage」を使用

 ワタミが導入を進めているクラウド型ERPは、インフォアジャパンの「Infor CloudSuite Food & Beverage」。AWSをベースに、財務会計、原価管理、販売管理の他、調達状況の管理、レシピの工程管理、原料の消費期限を含む在庫管理、リコール対応状況の管理――など、飲食事業者に特化したアプリケーションを搭載したものだ。

 ERPに集積したデータの分析ツールとして、インフォアジャパンのクラウド型BIツール「Birst」も使用する。ワタミは現在、両システムを調理工場や拠点に展開しており、宅配弁当の調理工場(全9カ所)への導入は全て完了した。今後は外食事業向けの調理工場(全2カ所)への導入を進めていく。

photo ワタミが導入を進めている、インフォアジャパンの「Infor CloudSuite Food & Beverage」

 「エリアマネジャーなどの責任者は、地域、チェーン、店舗といった単位ごとに、売上や利益、原価率、商品の売れ行きランキングをリアルタイムで把握し、さらなる集客や店舗運営の効率化、原価率の改善などにつなげられる」と若林氏は自信を見せる。

 責任者は導入後、分析結果をPDFファイルにまとめて従業員の端末に毎日配信し、部下のパフォーマンスを高めていくという。

ワタミのレガシーシステムとは

 クラウド型ERPの導入を決めるまで、ワタミはどんなシステムを使用していたのか。

 若林氏は「生産管理、原価管理、需要予測、財務会計などには、ベンダーにオーダーメイドで開発してもらったオンプレミス型システムを長期間使っており、保守期限切れが近づいていた」と振り返る。

 弁当宅配事業を手掛けるタクショク(08年に買収)を始めとするM&Aを行った後も、各社に固有のシステムを継続的に利用し、ワタミ側のシステムとパッチワークのようにつないで連携していた。アジア諸国への出店も強化しているが、海外拠点では各国にローカライズされたシステムを使っていたという。

 「POSデータをうまく使いこなせておらず、新メニューの考案などは店長の勘と経験に頼っていた。異なる業態のチェーンの売上を1つのフォーマットにまとめ、グループ全体の売上を算出する作業にも時間がかかっていた。リアルタイムでの確認もできず、結果を紙に出力して壁に張り出していた」と若林氏は語る。

 クラウド型ERPを全社展開した後は、各社のデータを同じフォーマットに統一した上で1つのクラウドプラットフォームで管理するため、経営判断の迅速化が期待できるという。

 「今後はエビデンスに基づき、店舗の立地や客層に応じたメニュー開発を行ったり、トレンドにそぐわない商品はメニューから外したりと、判断のアジリティー(素早さ)を高めたい」と同氏は意気込む。

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