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なぜ、トヨタは「実験都市」をつくるのか? その狙いと勝算を考える(2/3 ページ)

» 2020年01月16日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

ライバル企業による実験都市の取り組み

 現代ではデジタル技術の普及により、モビリティにおけるMaaSのように、複数の存在がつながりあって価値を生み出したり、最適化を実現したりするという構図がさまざまな領域で生まれている。世界的な大手テクノロジー企業も、独自の構想を描き、都市単位での実験を進め始めている状況だ

 例えば米Googleは、15年にサイドウォーク・ラボ(Sidewalk Labs)という会社を設立した。都市全体を対象としたサービス・プラットフォームの実現を目指しており、その実証実験を行うために世界各地の都市で交渉を進めている。中でもカナダのトロントでは、既に自治体との間に合意が成立し、20年から開発が本格化される予定だ。約4.9万平方メートル分の土地を再開発し、モビリティ・エネルギー・環境・健康といった課題に最先端のテクノロジーで対応する街を構築するという。

 IT企業のGoogleらしく、開発にはAI技術も駆使するとしており、機械学習によって都市デザインを行うというコンセプトも発表されている。建設の対象となる区画の情報や、建物の密度や空き地の広さなどの諸条件をパラメーターとして与えると、AIがそれに合致したデザインを無数に生成し、その中から優れたものを選んでくれるという仕組みだ。

 ただこの計画に対しては、「Googleが収集するデータによって、プライバシーが侵害されるのではないか」という懸念の声が地元住民から上がっている。そのため当初はもっと広いエリアまで開発を行うはずだったが、前述の通り限られたエリアでの調整を余儀なくされている。

 中国企業も大胆な取り組みを行っている。例えば大手企業のTencentは、深セン市宝安区にある約81万平方メートルもの埋立地の利用権を獲得したと報じられている。Tencentはここに、ICT技術や医療技術、さらには教育やスポーツといった要素も組み合わせた「未来都市」を建設し、宝安区全体で7万5000人分の従業員向けオフィススペースを確保する予定という。

 また同じく中国IT大手のAlibabaは、17年に中国科学技術部が発表した「次世代AI発展計画」において、スマートシティを担当する企業と位置付けられ、本社を置く杭州市で実用化に向けた取り組みを進めてきた。これは「シティブレイン」プロジェクトと呼ばれ、文字通り「都市の頭脳」のようなシステムを、AIなどの先端技術を駆使して実現するというもの。都市の各所に設置された、各種センサー類や監視カメラ、情報端末を通じて大量のデータを収集・解析することでさまざまな社会問題に対処するとしている。

 例えば杭州市蕭山区(しょうざんく)では、このシステムを交通問題に活用。自動信号制御により、道路上の平均移動速度が15%アップし、平均移動時間は3分短縮、緊急車両の対応時間は50%短縮され、救急車の到着を7分早めることができた――としている。さまざまな交通違反や事故の発生をリアルタイムで検知したり、その兆候を察知して関係機関に通報したりといった対応まで行われている。

 こうした成果を売り込む材料として、Alibabaは中国内外の他の地域にも「シティブレイン」システムを展開しようとしており、実際にマレーシアの首都クアラルンプールでのプロジェクト実施が決定している。

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