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故人の歌声合成を、当事者視点で考える 「AI美空ひばり」は冒とくなのか立ちどまるよふりむくよ(2/3 ページ)

» 2020年01月22日 12時00分 公開
[松尾公也ITmedia]

AI美空ひばり以前の「故人の歌唱合成」

 故人が遺した音声トラックを元にして新たな楽曲を合成する試みは、いくつかのアプローチがある。順を追っていこう。

 ヤマハが故人のVOCALOIDとして最初に公開したのは、植木ロイドと呼ばれる、植木等さんの歌声を元にした歌声データベースだ。2006年から開発が始まり、2011年にはその存在が公表された。最初はVOCALOID 2ベースだったが、その後VOCALOID 3にアップグレードされた。人間の歌唱をVOCALOIDに転写する産業技術総合研究所のVocaListner(ぼかりす)も使用された。その楽曲は、植木等さんの長男である比呂公一さんが作詞・作曲したものだ。

 2014年にはX JAPANのギタリスト、hideさんが遺したボーカルトラックを元に、制作途中でhideさんが死去したため未完成に終わっていた楽曲を完成させた「子 ギャル」が発表され、CDとしても発売された。

 VOCALOIDとは異なる歌声合成技術でも故人の歌声をよみがえらせる試みがされている。2016年に発表された「ハルオロイド・ミナミ」は、三波春夫さんの録音データを元に、名古屋工業大学で開発あれた統計的パラメトリック音声合成技術でモデル化されたもので、CeVIOというWindowsソフトで利用できる。これまでに紹介した故人の歌唱合成とは異なり、一般の人もソフトを購入すれば自由に歌ってもらうことが可能なのが特徴だ。CeVIOを持っていれば、無料で使える

 「オリジナルの歌のほうがいいのは当然ですが、もっと工夫してみよう、面白いものもつくってみよう、というのは、藝の道を歩む者の執念ですね」と、1992年、三波春夫さんは述べている。これは「HOUSE五輪音頭」についてのコメントだが、自身の歌声合成化についても面白がってくれそうではある。ハルオロイド・ミナミは、長女の三波美夕紀さんがスーパーバイズしている。

 これらは歌唱合成ソフトを使って故人の歌声を作り上げた例だが、それ以前の2004年に、亡くなった歌手が歌うシーンが登場する映画が作られている。

 その作品とは、ミュージカル「オペレッタ狸御殿」。鈴木清順監督の遺作である。

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 ぼくがこの作品に美空ひばりさんがデジタル出演していることを知ったのは2014年。hide VOCALOID登場のときに教えてくれた人がいたからなのだが、DVDを買ってその歌声を聞いたときの感想がこれだ。

 この作品の中で、美空ひばりさんはCGで登場し、新曲「極楽蛙の観音力」を歌っている。この合成は日本音響研究所が担当。バウリンガルで知られている会社だ。どのような技術でやっているのかは謎。AutoTuneやMelodyneといったソフトを使って合成しているのだろうか。

 同じ技術は、美空ひばりさんの長男である加藤和也さんの結婚式でも使われたという。加藤さんはNHKスペシャルでも、母・美空ひばりさんが朗読したカセットテープを提供していることを明らかにしているが、「AI美空ひばり」と合わせると、2回目、15年越しのプロジェクトであることが分かる。

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