しんゆう:物事に対する洞察です。しかし、多くの分析者はデータをどう処理するかという技術の話に偏っていて、洞察に対する考え方が欠けているように思います。データを分析して、それからどうするのかという先の話がない。そこを何とかしないといけないでしょう。
松本:洞察力は、どうやって磨けばいいのでしょうか。僕の会社は常日頃から「インサイトが大事だ」と言っているので、代表ともよく考えています。以前、こんな例え話をしました。将棋のルールを覚えても、多くの人は羽生善治さんに勝てるほどうまくなるわけではありません。ルールを知ることと、強くなることは別だからです。そんな中で、トップクラスの人たちは、多くの猛者と対局しながら、少しずつ実力を身に付けていきます。洞察力も経験の蓄積なので、似たようなものだと思うのです。
しんゆう:データ分析や洞察に関するノウハウは体系化されていないので、それぞれ自分の方法でやるしかないんですよね。データに関わる仕事が組織の中で正当に評価されていないのも、ずっと昔からですよね。
松本:しんゆうさんは以前、ブログで「情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記」(文春文庫)を「データ分析に関わる全ての人の必読書」だと紹介していました。これは、第二次世界大戦において日本軍がいかに情報分析を軽視していたかをまとめた本ですが、「ずっと昔」というのはこの頃からという意味ですか。
しんゆう:データ分析に関わる人で、この本を読んでいない人は“もぐり”だと思っているくらい、良い本です。この本を読むと日本軍がいかに情報分析を無視していたかよく分かりますし、本書の内容は日本のビジネスにおけるデータ分析そのものともいえます。もしかしたら、(日本でデータ分析が進まないのは)文化的なものなのかもしれません。
松本:具体的に、どういった所が企業の話と似ていると思いますか。
しんゆう:例えば、「情報を無視する」「情報分析ができる人を育てない」「情報分析に携わる人の地位が低い」「担当者は大体若手か左遷された人」「セキュリティが甘い」などです。情報部の意見はほとんど無視されて、作戦部が自分のやりたい作戦を実行して大失敗してしまう。情報セキュリティというとサイバー空間の話に聞こえますが、要はスパイに弱いんです。
松本:確かに、現代のビジネスの話にも通じます。
しんゆう:日本は昔から、外部から情報を集めて意思決定に使う経験に不慣れです。少数の集団なら個人の優秀さだけで乗り切れるかもしれませんが、他の国や民族まで関わってくると、個人で理解できる範囲を超えてしまいます。
松本:意思決定できるようにアシストする人や、洞察する人をどう増やすかが課題ですね。
しんゆう:そのための情報ですからね。意思決定する側の主体性が欠かせません。今のところ、意思決定者のタイプは二極化しています。1つ目は、自分の力で問題を解決したがる人。こういうタイプの人は、情報を提供しても使わずに自分で考えて判断することが多いです。2つ目は、自分で決められない丸投げタイプの人。これらのタイプではデータ分析をうまく使うにはダメで、意思決定者は「この問題に対して意思決定をしたいので、こういう情報が欲しい」というオーダーを出せないといけません。
松本:これまで私は「時代の変化に対応するためには、経営者も勉強をし続ける必要がある」と言ってきました。今回の取材を通して、この問題は日本の歴史や文化面での解釈が必要な根深いものかもしれないと認識を改めました。
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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