水彩錯視は色の同化と違って、囲まれた領域の広さに関する制限がないため、さまざまな用途が考えられます。例えばわが家では2019年に、水彩錯視を使った年賀状を作ってみました。
年賀状のねずみや花、文字は、輪郭線以外の部分は白色ですが、色がうっすらと付いているように見えます。輪郭線以外が白色であることを確認するための動画も作りましたのでご覧ください。
水彩錯視はグリーティング・カードをはじめ、さまざまなものに使えます。いろいろ楽しんでみてはいかがでしょうか。
ところで、色の錯視にはこの他にもいくつかのタイプがあります。例えば、この連載では第5回で色の対比錯視、また、色というよりは輝度の錯視ですが、第11回で新しいタイプのエッジによる輝度の錯視を取り上げました。
特に第5回では、色の対比錯視について、脳内の視覚情報処理の数理モデルによる錯視の再現(シミュレーション)、さらにある種の逆問題を解決できたことも報告しました。しかし、水彩錯視や新しいタイプのエッジによる輝度の錯視については、この種の数学的研究の突破口が現時点では見いだせていません。これらの錯視が脳内の神経細胞のどのような計算で発生しているのかを数理モデルレベルで解明し、コンピュータで再現することは、今後の研究課題の一つといえるでしょう。
錯視の謎をコンピュータで探る旅はまだまだ奧が深そうです。
引用・参考文献
[A] 新井仁之(監修・著)・こどもくらぶ(編)(2016),<錯視>だまされる脳,ミネルヴァ書房.
[J]JISハンドブック 61 色彩,2019,日本規格協会.
[K]北岡明佳(2010),錯視入門,朝倉書店.
[P1] B. Pinna, G. Brelstaff, and L. Spillmann (2001), Surface color from boundaries: a new ‘watercolor’ illusion, Vision Research 41, 2669-2676.
[P2] B. Pinna, J. S. Werner and L. Spillmann (2003), The watercolor effect: a new principle of grouping and figure-ground organization, Vision Research 43, 43-52.
著者:新井仁之(あらい ひとし)
早稲田大学 教育・総合科学学術院・教授、理学博士。
横浜市生まれ。東北大学大学院理学研究科教授、東京大学大学院数理科学研究科教授
などを経て現職。
視覚と錯視の数学的新理論の研究により、平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞、1997年には複素解析と調和解析の研究で日本数学会賞春季賞を受賞。
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