人が物体を認識するのに重要な感覚が「触覚」だ。「自分が今何かに触っているか」「どんな形状のものに触っているか」「どれくらい強く当たっているか」など、触覚のフィードバックがないと認識するのは非常に難しい。VRの世界で目を閉じてしまったら、もはやどんなオブジェクトが周りにあるのか分からないことを想像するといいかもしれない。
しかし、VRでも触覚を得られたらどうなるだろう。現実世界では本来空中であるはずの場所に手を伸ばすと、そこに何らかの感触を得られるとしたら?
そんな未来を間もなく実現しそうな「空中ハプティクス」の技術を今回紹介する。
空中ハプティクス技術を開発しているのは、英国ブリストル大学発のベンチャー企業Ultraleapだ。既に日本の代理店を通じて製品を販売している。1月に開催された自動車関連の総合展示会「オートモーティブワールド」で実機を触ることができた。
展示があったのは「STRATOS Explore」という開発キットで、約20センチ四方の板に小さな超音波スピーカーを16×16個並べている。その上に手を持っていくと、空中の特定の位置で何かを触っているような感覚を得られる。
今回は自動車向けということで、ファンの風量や音のボリュームなどを調整するデモアプリが展示されていた。空中で手を上下に動かすと、スライダーを触っているかのような触覚が得られる。つまり、自動車の新たな入力インタフェースとしての提案だ。
この技術では、並べたそれぞれの超音波スピーカーからうまく波の位相をずらして超音波を発することで、それぞれの波が干渉して強め合う「焦点」を作り出している。この焦点に手をかざすと圧力の触覚が得られるという仕組みだ。
現在のところ、焦点の位置を制御することで「クリック」「ダイヤル(手のひらを点がぐるっと回る)」「ライトニング(手のひらから各指先へ点が走る)」「オープン・クローズ(手のひら中心に点が同心円状に開く/閉じる)」「リップル(手のひら全体を点がランダムに押す)」「スキャン」といった触感エフェクトが可能という。触感はデバイスから10〜50センチ程度の範囲で生成できる。
手の動きは、VR向けハンドトラッキングデバイスとして有名な「Leap Motion Controller」で取得している。同社は19年5月にLeap Motionの開発元である米Leap Motionを買収しており、今はUltraleapがLeap Motionの製品を扱っている。
車載器の他に、VRはもちろん、家電やPC、サイネージ、エレベーターなどの入力インタフェースとしての応用も期待できるという。同社は、防水カバーや強度を高めたメッシュ、触感生成範囲を重視した低減衰カバーを用意することで、さまざまな用途に利用できるよう工夫している。デバイス自体のサイズについても今後バリエーションを増やしていくとしている。
展示担当者によると、「(日本では)サイネージの引き合いが強い」とのこと。街中で空中ハプティクスを体験できる日も近いかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR