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» 2020年03月04日 07時00分 公開

JASRAC対音楽教室、地裁判決は順当かナンセンスか 「一般人の常識に即した裁判」の論点を整理する (1/3)

音楽教室がJASRACに音楽著作権の使用料を支払う必要があるかが争われた訴訟で、東京地裁が音楽教室側の訴えを棄却した。この判決は現在、SNSなどで賛否両論を呼んでいる。本記事では、著作権者や法律家などへの取材をもとに、地裁判決の論点を整理し、判決の妥当性を考察する。

[山崎潤一郎,ITmedia]

 楽器の演奏や歌謡などを教える音楽教室が、日本音楽著作権協会(JASRAC)に音楽著作権の使用料を支払う必要があるかが争われた訴訟で、東京地方裁判所(佐藤達文裁判長)は2月28日、教室での楽曲使用全般に著作権が及ぶと判断し、使用料の支払い義務があるとする判決を言い渡した。

 判決が出た直後にJASRACが開いた記者会見で、JASRACの世古和博常務理事は「当協会の判断が全面的に認められたものと受け止めている」と述べた。対して音楽教室側は、判決直後に「引き続き、音楽教室のレッスンにおける演奏については演奏権が及ばないことを強く主張してまいります」との声明文を発表し、控訴する考えを示した。

 この判決は現在、SNSなどで賛否両論を呼んでいる。

photo JASRACの世古和博常務理事(=左)

問題の始まりは2003年にさかのぼる

 この問題の始まりは2003年にさかのぼる。JASRACは、1999年の著作権法の改正を受けてヤマハの関連組織や河合楽器など、音楽教室を運営する事業者に対し、楽曲使用に関する利用許諾の手続きを要求した。しかし音楽教室側は、教室内での演奏には著作権が及ばないと手続きを拒否。合意に至らないまま現在まで協議が続いている。

 その間、JASRAC側は外堀を埋めるかのように、フィットネスクラブ、カルチャーセンター、ダンス教室、歌謡教室などと順次合意し、使用料の徴収を始めた。これに対抗する形で音楽教室側は17年2月、ヤマハ音楽振興会、河合楽器製作所、島村楽器など、約300以上の団体からなる「音楽教育を守る会」を発足。文化庁長官への裁定申請、署名活動の実施などを相次いで行ってきた。

 さらに、音楽教育を守る会は17年7月、音楽教室でのレッスンは著作権法に定める「演奏権」の対象にならない――ということを確認するための訴訟を提起。裁判と並行して、JASRACが文化庁に提出した使用料規定の有効化を阻止する目的で、文化庁長官宛に「要望及び質問書」を提出するなど、司法と行政の両面から対抗する姿勢を強めてきた。

 これに対し文化庁は、JASRACに「(この問題で)争う事業者には、司法判断で認められるまでは使用料を督促・請求してはならない」「争わない事業者へは、協議して適切な使用料の額とする」といった趣旨の裁定を出した。JASRACによると、同協会と争わず、使用料を支払っている事業者は10社あるという。

裁判の3つの論点を整理

 こうした経緯で行われた今回の訴訟。その中で議論の的になったのは、以下の3点だ。

(1)音楽の利用主体は誰か

 音楽教育を守る会は「教師または生徒」、JASRACは「音楽教室事業者」が、音楽の利用主体に該当するとそれぞれ主張してきた。裁判所は両者の主張を踏まえた結果、利用主体は音楽教室事業者であると判断。その根拠として、著作物を利用して利益を得ているのは事業者である点を挙げた。

(2)音楽教室での演奏は「公の演奏」か

 音楽教育を守る会は「聞き手がいないので(教室内での演奏は)公衆に対する演奏にはあたらない」と主張したが、裁判所は、上記の「利用主体」の判断を受ける形で、JASRACの主張通り、レッスン中の演奏は「公衆」に対するものとの考えを示した。

(3)教室での演奏が著作権法22条の「聞かせることを目的」としているか

 音楽教育を守る会は、教室での演奏は、技法を教授したり達成度を確認するためのものであり、「聞かせる」ためではないと主張。一方のJASRACは、状況や理由は問わず、著作物を聞かせる目的があれば「聞かせることを目的」とする演奏であると主張。裁判所はJASRACの主張を認めた。

覆面調査員を派遣して批判も

 音楽教室が「聞かせることを目的」に演奏を行っているか否かについては、過去にひと騒動あった。JASRACが指導の実態を確かめるため、音楽教室に覆面調査員を派遣していたことが19年夏に報じられたのだ。報道によると、JASRACの職員は職業を「主婦」と偽り、ヤマハの教室に約2年間通って潜入調査を行っていたという。レッスンでの演奏について、この調査員は、「豪華で演奏会にいるような雰囲気」といった趣旨の証言を行ったとしている。

 当時は、このようなスパイ活動を思わせるやり方が報じられると、ネットでは非難の嵐が巻き起こった。だがJASRACは、通信カラオケが普及する以前は、カラオケスナックなどに「カラオケGメン」などと呼ばれる覆面調査員を派遣していたというので、彼らにとってみれば、調査の一環ということであろう。この調査方法の是非は、今回の裁判では論点にならなかった。

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