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JASRAC対音楽教室、地裁判決は順当かナンセンスか 「一般人の常識に即した裁判」の論点を整理する(2/3 ページ)

» 2020年03月04日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

現行の著作権法に照らせば、当然の結果か

 こうした裁判所の判断を受けて、音楽教育を守る会は「控訴に向けて準備を進める」との声明を発表。結論は再審に持ち越される格好となった。だが、筆者が著作権法に詳しい弁護士に見解を聞いたところ、今回の判決は「予想された結果」だという。

 利用主体の判断については、これまでもカラオケ店でのお客による歌唱が論点となった「クラブキャッツアイ事件」、日本のテレビ番組をネット経由で海外でも視聴可能にしたサービスの是非が問われた「まねきTV事件」や「ロクラクII事件」といった事件の裁判において、最高裁ではJASRACなど権利者側の主張を認める判例が積み重ねられてきた。同弁護士は、今回の判決もその判例を踏襲した結果だと説明する。

 さらに、楽曲の権利者に取材したところ、「音楽を創るものからすると、教育とはいえ、利益を上げている事業にタダで音楽を使われることに抵抗を感じる」(音楽プロデューサー)という意見も根強かった。

 17年2月には、歌手の宇多田ヒカルさんが「もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな」とSNSに投稿したことが話題になったが、同プロデューサーは「感情にまかせてネットで意見を言うのは自由だが、著作権法やビジネスの仕組みをちゃんと理解しているのか」と疑問を呈する。確かに今回の判決は、現行の著作権法に照らせば、当然の結果なのかもしれない。

photo 一審敗訴を受け、「音楽教育を守る会」が出した声明文

有識者からは疑問も

 その一方で、法律を理由にこのまま権利者の権利が拡大することに違和感や疑問を覚える向きが多いのも事実だ。例えば、一部の法律家などからは「楽譜やCDは、使用料が加味された形で販売されている。音楽教室はそれらを利用してレッスンを行っているのだから、JASRACの主張がまかり通ると、権利者は二重の利得を得るのではないか」――という疑問も出ている。それと同時に、今回の裁判でも同様の趣旨で二重利得の是非に対する訴えが盛り込まれている。

 これについて裁判所は「著作権法において、個別の行為に対して支分権(楽譜やCDは複製権、レッスンは演奏権)が設定されているのだから、二重の利得にはあたらない」と今回の判決文に明記した。

 だが、JASRACによる著作権料徴収の是非を問う著作『JASRACと著作権、これでいいのか 強硬路線に100万人が異議』(ポエムピース社)の著者である、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの城所岩生客員教授は、この内容に疑問を持っているという。

 同氏は筆者の電話取材に応じ、「日本にはフェアユースの概念がないため、音楽教室側は「『楽譜やCDに加え、発表会での演奏からも使用料を二重に徴収することは権利の濫用だ』と主張するしかないのだろう。だが、裁判所はなかなか権利の濫用を認めないので、衡平の観点から見て、バランスを欠いた印象はぬぐえない」と指摘した。

 フェアユースとは、著作権で保護された著作物であっても、批評、引用、報道、教育、研究、調査などで利用する場合は、許諾不要での利用が認められる場合がある――との旨を規定した法的概念。多くの国で導入されているが、日本では権利者の反対により整備が進んでいない。

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