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輸血パックが空を飛ぶ 「アフリカの奇跡」、急激な近代化を果たした小国・ルワンダが進めるICT立国の今(2/2 ページ)

» 2020年03月11日 12時00分 公開
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なかなか育たないルワンダ発祥企業

 Ziplineはその性質上郊外を拠点としているが、スタートアップや地場産業といえる主要企業の多くは首都キガリ市内でもやや空港寄りのエリアに集まっている。

 例えば、アフリカ企業初のスマートフォンメーカーといわれ、キガリ市内に製造拠点を持つMara Phoneも空港近くに本社がある。基本的には組み立てやデザイン、各種マーケティングを担当という業務形態なので、手掛けるスマホのスペックはミドル〜ローエンドで、価格的には1.5万〜2万円程度のものとなる。しかしデザインとしてMaraのロゴが1点だけ入ってシンプルなのと、「Made in Rwanda」と刻印できる点がアピールポイントだ。

アフリカ初のスマートフォンメーカーとされるMara Phoneの公式ストアはキガリ市内に2カ所ある

 こうしたハイテク企業の集積地の1つとなっているのが「キガリハイツ」というエリアだ。敷地内にはコンベンションセンターとホテルがあり、政府として熱心に国際会議を誘致していることもあり、国力に比べてアフリカ内における国際会議開催数は上位に入るという。このキガリハイツにはアフリカの若者の就業支援を行う「Mastercard Foundation」や、モバイルを介した各種オンラインサービスを提供する「DMM.HeHe」といった企業のオフィスがある。

 DMM.HeHeはもともと2010年にHeHeという地元のソフトウェア開発企業としてスタートしたが、DMMからの出資後に買収を受け入れ子会社化し、現在の社名に改名している。

 DMM GroupはDMM Africaの事業を通じてこうした投資を行っており、ほかにも地元企業AC Groupへの出資を行っている。AC Groupは「Tap&Go」という交通系ICシステムを提供する企業で、キガリ市内を走るバスで利用できる。現地の人たちによると、「地元発の企業で純粋に成功と呼べるのはHeHeとAC Groupの2社だけ」だという。前述したZiplineやBabyl(Babylon)は国外企業のルワンダ拠点であって、ルワンダで一から始めたわけではない。そうした例も含めて積極的に誘致しているとはいえ、なかなか生え抜きが育たないというジレンマはあるのだろう。

キガリ市のビジネスエリアに位置するキガリハイツ(Kigali Heights)
キガリハイツのビルにはMastercard Foundationのほか、DMMが買収して参加に収めた現地スタートアップ「DMM.HeHe」などが入居している

近代化の裏で問題となる「所得格差」 仕事したくても数がない

 こうしたハイテクやサービス産業に従事する人々が比較的安定した生活を送っているのに対し、国民の平均年収は400米ドル前後。第1次産業従事者は全体の7〜8割に上るとされ、都市部と地方部での所得格差が非常に大きいとみられる。

 綺麗に植林や整備がなされてゴミ1つ落ちていない道路が自慢のキガリでも都市部の貧困層は多く、主要道路をちょっと外れるだけで未舗装の悪路が広がる。

 こうした悪路に面した昔ながらの素朴で小さな住宅に多くの住民が住んでおり、滞在中はこうした家々からスーツで出勤する人々を見かけた。車はまだ広く普及している状態ではなく、主な通勤手段は徒歩やバスの他、オフロードバイクのタクシーが利用されている。今後、道路整備が進んで車が普及したときに交通渋滞が社会問題化するのは確実のため、政府は現在、公共交通整備に向けた動きを強化しているようだ。

 キガリを始めとしてルワンダに横たわる大きな問題の1つは「仕事」だ。他国であれば、都市部に地方から人が集まって稼ぎ、それを地元に仕送りして家を助けるというサイクルができることもあるが、産業の育っていないルワンダではそもそも首都にきても仕事がない。

 現在キガリにいる住民にしても、稼げるだけの充分な仕事にありつけていない状態にある。さらに、現在未就労の若年層のピークが就労人口に加わるタイミングが近付きつつある。いかに国民へ仕事を供給するかが、ルワンダ政府が目下取り組まねばならない課題の一つといえそうだ。

立派なビルや舗装された道路がある一方で、道の裏手には未舗装の悪路があり、下層域には簡易的な作りの昔ながらの住宅地が広がっている
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