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人工知能は新型コロナの流行を知っていた パンデミック対策の最新事例よくわかる人工知能の基礎知識(2/4 ページ)

» 2020年04月15日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 彼らは「WeChat」や「Weibo」を含む中国語の情報源を分析することで、COVID-19が中国国外にも広まりつつあることを最初に認識した研究機関となった。HealthMapは現在、COVID-19の特設ページを設置しており、世界全体での感染状況を一目で把握できるようにしている。また単に感染症の発生を把握するだけでなく、疫学モデルなどと組み合わせることで、今後その病気がどのように伝播するかを予測する取り組みも行っている。こうした情報をAIが迅速に提供してくれることは、公衆衛生上の対策を打つ上で大きな価値となるだろう。

 ただ前述のエボラ出血熱の例では、HealthMapが「謎の感染症が発生した可能性あり」と把握していたものの、人間の側がその重要性に気づかず、対応が遅れるという出来事が起きた。これはHealthMapに限った話ではないが、AIが行う非常に精度の高い(しかし大きく間違っている可能性もある)予測を人間がどう活用するかという、運用側の仕組み作りも重要だろう。

 カナダの企業BlueDotも、AIを活用していち早く新型コロナウイルスの流行を把握した組織として知られる。彼らはWHOが1月9日に声明を発表し、中国・武漢で新型コロナウイルスが確認されたと明かしたタイミングより9日も前に、COVID-19の発生を把握していた。

 彼らが開発したシステムも、ビッグデータを自然言語処理と機械学習を活用して分析することで、感染症の発生・拡散を追跡することを目的としている。さらにBlueDotは、AIの分析結果を医師と技術者からなるグループで精査し、警告を発すべきかどうか判断する体制を敷いている。警告すべしと判断された場合には、レポートとして発信するのだが、興味深いことにCOVID-19のレポートでは、次に感染者が発生しそうな都市はどこかという情報まで含まれていた。これは航空会社の発券データなどを基に予測されており、武漢からの旅行者の数が最も多いと指摘された都市は、バンコク、プーケット、香港、シンガポール、ソウル、台北、そして東京だったそうだ。

 このような情報発信の仕組みは、AIの力をどうすれば最大限活用できるかを考える上で参考になるだろう。

感染者を把握する

 新型コロナウイルスへの対応をめぐっては、どのような手段が最も望ましいのかをめぐって激しい議論が起きている。例えば、感染者を把握するためにどこまで検査を実施すべきかについては、日本でもいまだに結論が出ていない。

 新型コロナウイルスへの感染の有無を確認する方法としてよく挙げられるのが「PCR検査」だ。これは特定の人物に対して、ウイルスが体内にあるのかどうかを確認するためのもので、鼻の奥から体液を採集して分析する。当然ながら分析に時間がかかる他、鼻の奥の正確な場所をぬぐう必要があるため、検査の対象者を手軽には増やせないし、陽性の人を見逃してしまう(いわゆる「偽陰性」が出てしまう)――という弱点が指摘されている。

 そこで他にもさまざまな方法が開発されているのだが、ここにもAIを応用する例が出ている。

 例えば北京のスタートアップであるInfervisionは、コンピュータ断層撮影(CT)検査で得られた画像をAIが分析し、COVID-19の症状が認められるかどうかを判断するシステムを開発している。これはもともと、肺がんを検出するようにトレーニングされたAIだったそうだが、新型コロナウイルスによる肺炎の症状なども把握できるようカスタマイズしたそうだ。実際に、中国にある34の医療機関で、このシステムを使って3万件以上の症例をスクリーニングしたと報告されている。

 同様のシステムを開発したのが、カナダのAI企業DarwinAIだ。彼らが発表した「COVID-Net」という名のニューラルネットワークは、COVID-19を始めとするさまざまな肺疾患を抱える患者から胸部X線画像を集め、そこからCOVID-19の兆候を検出するようにトレーニングされている。トレーニングに使用したデータセットも提供されているため、研究者たちがツールの精度を検証したり、修正したりできるようになっている。

 こうした個々の患者を診断するAIツールが各所で開発されている。もちろんその価値は非常に大きいものの、いちいち病院に行って診察してもらうようなやり方では、新型コロナウイルスという非常に感染力の高いウイルスの拡散力には追い付かない。そこで他のさまざまなデータを活用することで、瞬時に患者の存在や、その可能性を把握するための仕組みが登場している。

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