海外で進む「オンプレミス回帰」 その背景に何があるのか(1/3 ページ)
2006年8月9日。米サンノゼで開催されたイベント「サーチエンジン・ストラテジーズ」において、当時米GoogleのCEOを務めていたエリック・シュミットがこんな発言をした。
いま興味深いのは、新しいモデルが現れつつあることです。そして皆さんがいまここにいるのも、皆さんが新しいモデルの一部だからなのです。この機会がどれほど大きいか、誰もきちんと理解していないと思います。そのモデルは、データサービスとアーキテクチャがサーバ上にあるべきだという前提から始まっています。
私たちはそれを「クラウドコンピューティング」と呼んでいます。それは「クラウド」上のどこかに置かれています。そして適切なブラウザやアクセス権さえ持っていれば、手にしているのがPCなのかMacなのか、はたまた携帯電話なのかブラックベリーなのか、あるいはこれから開発される新しいデバイスなのかに関わらず、クラウドにアクセスできるのです。
この発言で「クラウドコンピューティング」が多くの人々に知られるようになってから14年。その概念も、具体的なサービスもすっかり定着したといえるだろう。調査会社のIDC Japanは20年3月の発表で、19年の国内のパブリッククラウドサービス市場が対前年比22.9%増の8778億円に達したと推定。さらに24年の同市場は、19年の2.4倍にあたる2兆644億円に達すると予測している。
ところが海外に目を向けると、近年「オンプレミス回帰」という言葉がささやかれるようになっている。文字通り、クラウドを利用して構築していたシステムを、オンプレに戻すという意味だ。エリック・シュミットが「大きな機会」と評し、実際に市場拡大が進んでいるクラウドコンピューティングに対して、人々の意識はどのように変化しようとしているのだろうか。
海外で鮮明になった「オンプレ回帰」の姿勢
この「オンプレ回帰」がどのくらい顕著な現象なのか、少し数字を挙げておこう。
米調査会社IDCが18年にグローバル400社を対象に行ったアンケート調査によると、「過去1年間に、主にパブリッククラウド環境に置かれていたアプリケーションやデータをプライベートクラウドやオンプレミス環境に移行したことはありますか?」との問いに対し、「はい」と答えた企業は81%だった。また「はい」と答えた企業が選んだ移行先の内訳は、「オンプレミス型プライベートクラウド」が38%、「ホスティング型プライベートクラウド」が41%、「非クラウドのオンプレミス」が22%となっている。
IDCは同じアンケートを19年にも行っており、こちらでは「はい」と答えた企業の割合は85%で、緩やかだが増加傾向にある。ちなみに移行先の内訳は、オンプレミス型プライベートクラウドが50%、ホスティング型プライベートクラウドが49%、非クラウドのオンプレミスが10%となっており、オンプレのプライベートクラウドへの人気が高まっている傾向が見て取れる。
DropboxはAWSをやめた
数字だけでなく、具体的な事例も挙げておこう。オンプレ回帰の例として真っ先に挙げられることが多いのが、オンラインストレージサービスでおなじみの米Dropboxだ。
エリック・シュミットの「クラウドコンピューティング」発言から2年後、08年に正式サービスを開始した同社は、当初からデータセンターと併用してパブリッククラウドのAWS(Amazon Web Services)を活用してきた。しかしサービスが急成長し、膨大な量のデータを抱えるようになったことで、全てを自社インフラで対応する方が望ましくなると判断。14年にAWS利用を停止することを決定し、実際に15年にデータセンターへの移行を完了させた。現在はEB(エクサバイト)級のデータをこの自社インフラでさばいている。
Dropboxの例は、その規模や事業の性質から、あくまでも極端なケースであるとの指摘も多い。オンプレ回帰の決断を下した時点でも、Dropboxユーザー数は約5億人、企業顧客は20万社で、管理されるデータ量は500PB(ペタバイト)に達していた。またこれだけの規模になると、汎用的なパブリッククラウドを利用するのではなく、自社のニーズに合わせて繊細なチューニングを行った環境の方が、コストやパフォーマンスの面で大きなメリットを得られる。さらにデータ管理はDropboxのビジネスの根幹であり、そこに大胆なメスを入れるのは、困難ではあるもののチャレンジしがいのある戦略というわけだ。
ただDropboxが極端な例だったとしても、前述の通り、大きな「オンプレ回帰」の傾向が生まれている。その背後にはどのような理由があるのだろうか。
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