ソフトバンクグループが5月18日に発表した2020年3月期(19年4月〜20年3月)の連結業績は、売上高が前年比1.5%増の6兆1851億円、営業損益が1兆3646億円の赤字(前年同期は2兆736億円の黒字)、最終損益が9616億円の赤字(同1兆4112億円の黒字)に転落した。4月に下方修正した業績予想をさらに下回る結果での着地となった。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、AI関連の新興企業に投資する10兆円規模のファンド「SoftBank Vision Fund」(SVF)の投資先の市場価値が下落し、1兆9313億円のセグメント損益を計上したことが響いた。
特に損失が多かった投資先は、ライドシェアの米Uber(約5555億円)、コワーキングスペース「WeWork」運営の米The We Companyとその関連会社(約4916億円)など。その他の企業群は、新型コロナ禍の影響などで合計で約8049億円の損失を計上した。
ソフトバンクグループの孫正義社長は「SVFが大きなマイナスで経営の足を引っ張った」とし、特にWe社への投資に言及。「WeWorkで投資の失敗をしたのは公に認めている。私がばかでした。私が失敗しました。私が見損ないました」と語った。
今後は、昨夏に立ち上げたSVF第2弾も活用しつつ、巻き返しに向けて「用心しながら投資する」(孫社長、以下同)方針。「世界恐慌の後に飛躍したのは従来型ではなく新しい産業だった。コロナの影響でユニコーン企業は大変な試練を受けているが、当時と同じく、大きく羽ばたいて“コロナの谷”の向こう岸に飛んでいく企業が生まれると信じている」との展望を示した。
WeWorkも成長の可能性を残しているとし、「コロナショックが終わった後に、人々が新たに20年契約でオフィスを契約したいかと問われると、おそらくそうではない。先行きが読めない不確実な時代では、短期で効率よく契約できるオフィスはニーズがある」と孫社長は強調した。
ただし孫社長は、SVFの出資先から倒産する企業が出ることを覚悟しているという。SVFが設立からの約3年間で出資した88社のうち、20年3月末現在で、出資時から価値が上がった企業は26社、下がった企業は47社。この比率の推移について、孫社長は「15社は倒産する。15社はそれでも成功する。60社はまあまあの状況だろう」と説明した。
SVFは20年3月期こそ大幅な赤字を計上したものの、従来は利益を生んでいたこともあり、過去3年間のトータルでの運用実績は1000億円のマイナスに抑えているという。今後は5〜10年程度の長いスパンで見ると、生き残る15社が大きな価値をもたらし、目標とする「IRR(内部収益率)20%」を達成できると孫社長はみている。
孫社長は「現在は苦しんでいるが、最終的には目標を達成できると思っている。私は楽観主義者」と力説。「ネットバブル崩壊後も、Alibabaやヤフーがその後の株式価値の90%を生み出した。同じ事が今回も起きるだろう」と予測した。
SBGの他のセグメントでは、通信子会社ソフトバンクが増収増益を達成し、米通信子会社Sprintは米通信大手T-Mobileとの合併が完了。英Armは、大手クラウドベンダーのデータセンターでチップの導入が進んでいる。
20年3月期の決算短信では、3月に発表した資産売却の一貫で、先渡し売買契約によってAlibaba株を利用し、約1兆2185億円の売却益を得たことも明らかにしている。
21年3月期(20年4月〜21年3月)の業績予想は非開示としたが、今後は各セグメントに引き続き注力するほか、資金調達などによって危機を乗り切る考えだ。
孫社長は「ネットバブル崩壊直後やリーマンショックの頃の、崖から体が飛び出し、今にも転げ落ちそうな状況に比べると、今は崖の下をのぞいているくらいだ」と語り、業績立て直しに意欲を見せた。
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