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エネルギー業界では難しかった“フルクラウド化”に挑戦 発電会社が3カ月でERPをAzureに移行するまで(1/3 ページ)

» 2020年06月11日 07時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]

 東京電力フュエル&パワーと中部電力が折半出資で2015年に創業した発電会社のJERAは、燃料の調達から発電まで、エネルギーのサプライチェーン全体にかかわる事業を手掛けている。世界中の燃料を調達して国内に提供する他、海外での発電事業も行うなど、国内外で幅広くエネルギー供給を行っている。

 そんな同社はエネルギー業界では珍しく、システムのフルクラウド化を目指している。まず2019年11月に「Microsoft Azure」を導入し、20年2月にはERP(統合基幹業務システム)をオンプレミスからAzureに移行。現在はその他のシステムをAzureに移行中だ。

 安定性が求められるエネルギー業界で、ミッションクリティカルなシステムのクラウド化を試みる企業は同社が初めてという。なぜこうした施策に踏み切ったのか。これまでの取り組みを追った。

photo JERAのシステム移行の全体像

データドリブンカンパニーを目指しITインフラを刷新する

 JERAは創業当初、どのようなITシステムを選定・導入するかが課題の一つだった。まずは出資元である電力会社2社のITシステムを継承し、自社に持ち込んで事業をスタート。2社が運用中のITシステムを一部間借りして利用する場合もあった。

 だが、電力会社には長い歴史があり、親会社である東京電力フュエル&パワーと中部電力も、時代ごとに異なるプラットフォームやアーキテクチャでさまざまなシステムを構築・運用してきた。JERAではそうしたシステムを同時に継承したことで、運用方法がばらばらな状況に。この課題を解消するために注目したのが、クラウドなどを活用した新たなITシステム環境の構築だ。

 「JERAがグローバルなビジネスを目指す上で、親会社の2社とは異なる第3のITシステムを構築すべきだと考えた」と、JERAの藤冨知行氏(経営企画本部 ICTマネジメント推進部 部長)は言う。

photo JERAの公式サイト。東京電力フュエル&パワーと中部電力が親会社だ

 エネルギー業界の企業の多くは、過去から積み上げてきた膨大なITシステムを持ち、それらを自社データセンターの中で安定して動かすことに注力してきた。中には巨大なシステムもあり、それを一気にクラウド化するのは難しい。だがJERAはそうした既存システムからの脱却を決め、2019年度に「データドリブンカンパニーを目指す」という戦略を発表。クラウドを活用し、データをビジネスに生かせる新たなITインフラ構築に取り組むことにした。

 データドリブン化のためには、ITシステムのサイロ化を解消し、横断的にデータ活用ができる環境づくりが必要だ。そのためには「プラットフォームから変えるべきだと考えた」と藤冨氏。そして、まず取り組んだのが、ITインフラのフルクラウド化による統合だった。

 JERAが運用してきたシステムは、2019年4月の時点で約200個に上っていた。同社はまず、これらのばらばらなシステム環境をクラウド上で一元化し、運用体制も統一する方針を策定。基幹系業務システムに、グローバルなビジネスに対応できるERPパッケージのSAPを採用し、SAP ERPを運用するインフラも含めたクラウド化に取り組み始めた。

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