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エネルギー業界では難しかった“フルクラウド化”に挑戦 発電会社が3カ月でERPをAzureに移行するまで(3/3 ページ)

» 2020年06月11日 07時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]
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クラウド化で得たメリットとは

 インフラのクラウド化によって、JERAはいくつものメリットを感じている。現時点ではまだ過渡期であり運用負荷は大きいが、インフラを管理するコストがまず大きく下がった。また、稼働ピーク時にインフラの性能が足りなくなっても、数分から数時間ほどでリソースを増やせる弾力性の高さが備わった。さらに、クラウド化に伴ってシステム開発体制をアジャイルに移行し、開発スピードも向上した。

 すでに約200個のシステムのうち約80個のクラウド化が完了し、残る約120個のシステムも順次クラウド化していく計画だ。これまでの取り組みによって移行のノウハウを把握しているため、残るシステムのクラウド化も短期間で行える見込みだという。

 「これまではアセスメントをして検討し、PoC(概念実証)を行い、開発するといった手順を踏んでいた。今ではゴールを先に設定し、そこに向かってチーム全体で進めるようになった」と同社の藤井剛氏(経営企画本部 ICTマネジメント推進部 ICTインフラユニット ユニット長)は話す。

 このやり方でスピードを上げていくと、品質に問題が出る可能性もあったが、JERAは課題になりそうなポイントを自発的に洗い出し、ベンダーに任せるのではなく自分たちで積極的に移行を進めていった。これによって、ビジネスに悪影響を及ぼすことなくスピーディーにインフラを移行できた。この実績は、プロジェクトチームの自信にもなっているという。

 スピードを高めつつ、品質も落とさないようにするには「内製化によって自分たちでグリップすることが重要だった」と、JERAの佐藤雄哉氏(経営企画本部 ICTマネジメント推進部 ICTインフラユニット 主任)も振り返る。今後はインフラだけでなくアプリケーションの内製化にも取り組むなど、内製化の範囲を増やす方針だ。

今後はSAP S/4HANAの採用も議論、適材適所でSaaSも活用

 SAP ERPのAzure移行が済んだばかりだが、JERAではSAP ERPを、よりクラウドとの相性が良く、高パフォーマンスを実現しやすいERP「SAP S/4HANA」に切り替えることも議論している。同社は現在、SAP ERPを主に国内のビジネス環境で利用している。だがJERAには海外拠点があり、それぞれで異なる業務システムを利用しているところもある。今後は各拠点での利便性を高めるため、SAP S/4HANAを採用し、早い段階でグローバル拠点に水平展開する考えという。

 今後は適材適所でSaaSも活用するほか、自社のクラウドインフラ上で動かしやすい “クラウドネイティブ”なアプリ開発も行う予定だ。「プラント制御など一部手間のかかるシステムを除けば、インフラは全てクラウドでいけるだろう」と藤冨氏は話す。

 データドリブンカンパニーとして、マネジメント層だけでなく一般従業員レベルでもデータに基づく迅速な意思決定ができるようにするのが、JERAの最終的な目標だ。同社はそれを実現すべく、今後もクラウドを活用したプロセス変革を進めていく。

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