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遠隔合奏のために、音質、低遅延に全振りしたいと思います ヤマハ「SYNCROOM」始動、開発の狙いを聞いた(2/3 ページ)

» 2020年06月29日 17時28分 公開
[松尾公也ITmedia]

なぜSYNCROOMにリニューアルしたのか

 なぜヤマハが低遅延のネットワークサービスを実現できるのか。それは、ヤマハの主要事業の1つに、ルーターなどのネットワーク製品があるためだ。原さんはもともとネットワーク製品の開発に関わっており、その中で低遅延技術を音楽に応用する実験を始めた。それが数年かけてNETDUETTOという形に結実したのだ。

 そのNETDUETTOがSYNCROOMになると何が変わるのか?

 SYNCROOMになっても性能、機能は大きく変わらない。10年間ずっと「β版」だったNETDUETTOと違い、SYNCROOMはヤマハの正式サービスとしてスタートするというのが最大の変化だ。

 企業としてちゃんとサポートする体制ができたのだ。このため、誰でも匿名で参加できるシステムではなく、利用者がアカウントを取得してログインする仕組みとなった。ヤマハのWebサービスを利用する際に必要な共通アカウントを既に持っていれば、そのまま使える。サービス自体は無償のままだ。

photo ログインのためにはアカウントが必要となった

 ヤマハはSYNCROOMを会議システムに発展させようとは考えていない。「現時点ではこのサービス本体から収益を得ることは考えていない」というヤマハにとって、SYNCROOMによって楽器を長く使ってもらうことが、このサービスを提供する対価となるのだ。

新機能はどんなものか

 SYNCROOMアプリからアクセスできる機能で大きなものは3つ。まずは自分の声や楽器にリバーブをかける機能。リバーブの深さも変えられる。オーディオインタフェース側にリバーブ機能がある場合もあるが、気持ちよく歌える、演奏できるエフェクトとして活用したい。使えるリバーブは幾つあっても困ることはない。

photo Windows版SYNCROOMでリバーブたっぷりに歌ってみた

 残りの2つはメトロノームと録音機能。どちらも練習には欠かせないものだ。著作権の問題を考慮し、再生と録音は別々に処理する。

どのマシンで利用できるか

 利用できるPCのOSはWindowsならWindows 10の64ビット版、MacならmacOS MojaveおよびCatalinaとそれぞれ新しいものが推奨だが、それより前のバージョンでも動かないわけではない。むしろ、最新版OSできちんと動作を検証していると考えてほしい。

 SYNCROOMはPC、Macに加え、さらにAndroidでもβ版として利用できる。iPhone版の提供は未定。

 ヤマハは5Gネットワークを利用したスマートフォンでNETDUETTOを使えるよう、NTTドコモと共同で試験してきた。しかし、コロナにより外出に制限がかかり、商用電波での検証は十分にできていない。性能や利用可能なエリア、端末などを、このβ版の利用状況から調べていきたいという。アプリは既にGoogle Playストアで「SYNCROOM β」として公開している。

 スマートフォンに楽器をつなげばそのままワイヤレスマイク、ワイヤレスシールドとして遠隔地のプレイヤーと演奏できる未来に一歩近づける。Android用SYNCROOMは5Gでなくても「条件のよいWi-Fiであればある程度のセッションはできる」という。

 公開されたβ版をRakuten Miniにインストールし、自宅のWi-Fiで回線チェックしてみたが、「セッションできる可能性が高いです」と表示された。

photo Android版SYNCROOM βには回線チェック機能も

ネットワーク環境の制限はどうなるか

 SYNCROOMの推奨ネットワーク接続は光回線となっている。だがケーブルネットワークやADSLなどを排除しているわけではない。IPv6 IPoEも推奨しているが、それ以外で使えないこともない。正式サービスになったことで、ヤマハのサポート体制も整いつつある。回線業者と連携したサービス保証なども将来的には用意するかもしれない。

スタジオやライブ会場で利用できるか

 こういうオンラインセッションをやるとき、ギターやキーボード、ボーカルはまあいいのだが、ドラマーは困る。最近は電子ドラムも普及しているが、それでも集合住宅では厳しい。ドラマーだけはスタジオに入って他のメンバーはSYNCROOM、というスタイルもできるとありがたい。

 ヤマハにはリハーサルスタジオ、レコーディングスタジオやコンサート会場からの問い合わせもあるという。同社は、業務の成立を絶対的に保証できるものではないと理解してもらった上で、問い合わせに応じる姿勢だ。

MIDIならもっと悪い条件でもつながるのではないか

 使っているネット回線のせいでどうしても接続がうまくいかない場合もある。そういうときでも、MIDIデータのやりとりだけならデータが軽いからうまくいくのではないか。そんな疑問をぶつけてみた。

 ヤマハの答えは「MIDIでも難しい」というものだった。オーディオのレイテンシを縮められないときはMIDIでも難しい。接続が不安定なときはバッファをためて使うが、それもオーディオのときと同じく「ネットワークがよれちゃう」のだそうだ。

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