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“犯罪者チャット潜入捜査”成功させた欧州警察のマルウェア大作戦 暗号破って通信を傍受、数百人逮捕この頃、セキュリティ界隈で(2/2 ページ)

» 2020年07月14日 11時38分 公開
[鈴木聖子ITmedia]
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 Europolの発表によると、きっかけは、フランスの捜査当局が犯罪組織に対する捜査の過程でEncroChatのスマートフォンを発見したことだった。当局は同社のサーバがフランスで運用されていることを突き止め、2017年から捜査を開始。オランダなどと連携してEncroChatの暗号を破り、通信の内容を傍受することに成功した。

 EncroChatが世界中の犯罪組織に広く利用されていることをつかんだフランスの捜査当局は、捜査を通じて得た情報を、欧州司法機構(Eurojust)を通じて各国と共有した。

 これを受けて各国の捜査当局が捜査に乗り出し、英国では容疑者746人を逮捕して、多額の現金や武器弾薬、大量の麻薬などを押収。オランダでも容疑者100人以上、スウェーデンやノルウェーでも多数が逮捕された。

 Vice Motherboardによると、EncroChatのスマートフォンはAndroid端末を改ざんしたもので、独自の暗号化メッセージングプログラムがインストールされていた。GPSやカメラ、マイクなどの機能は取り除かれており、暗証番号を入力するとデバイスを消去して、普通のAndroid端末に見せかけることのできる仕組みも実装していた。

 ところが5月になって、端末を消去する機能が使えなくなる問題が発生した。端末が捜査当局にハッキングされ、マルウェアを仕込まれていたことが原因だった。EncroChatは更新プログラムを配信して問題を解決しようとしたが、すぐに再度の攻撃に遭い、ハッキングはエスカレートする。捜査当局の潜入を察知したEncroChatは6月13日、顧客に警告を出し、電源を切って端末を物理的に破壊するよう呼び掛けた。

 EncroChatはMotherboardに寄せた声明の中で、自社サービスについて「自分の情報を守りたいと思うあらゆる組織や個人に対し、信頼できるセキュアなサービスを提供している」と主張している。しかしフランスの当局は、同国内のEncroChat顧客の90%以上が犯罪に関与していると推測する。

photo EncroChatのWebページ

 欧州各国の連携捜査が実ってEncroChatのサービスは使えなくなり、通信手段を断たれた犯罪組織は混乱状態にあるという。しかし、こうしたサービスを手掛ける企業は同社だけにとどまらない。EncroChatと競合する「Omerta」という企業はすかさず、EncroChatの元顧客に照準を据えた宣伝キャンペーンに乗り出したとVice Motherboardは伝えている。

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