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ハイプサイクルに新登場した「ヘルスパスポート」はウィズコロナ時代に何をもたらすか新連載「ウィズコロナ時代のテクノロジー」(2/3 ページ)

» 2020年08月31日 17時02分 公開
[小林啓倫ITmedia]

論議を呼ぶヘルスパスポート

 もう一つのテクノロジーである「ヘルスパスポート」。これは自分が健康であり、何らかの病(特に今回であればCOVID-19)にかかっていないことを証明するためのテクノロジーである。通常のパスポートがある国の国民であることを示し、入国を許可してもらうために使われるように、ヘルスパスポートは自分が健康であると示し、特定の地域や施設等に立ち入ることを許可してもらうためのものだ。

 新技術のご多分に漏れず、この技術の定義は拡大しつつある。しかしその性質上、個人に関する各種の記録を統合し、その人物が健康かどうかのチェックを可能にするというのが基本的な機能となる。例えば医療機関が保管している、個人の健康に関するデータを基盤として、そこにアクセスして関連情報を表示するスマートフォンのアプリを開発、それを個人にインストールしてもらって必要に応じて提示してもらう、といった具合だ。当然ながら情報の改ざんなどがあってはならないため、データの記録・保管にブロックチェーン技術を応用しているアプリケーションもある。

 この各種情報の中に何が含まれるかは、個々のアプリケーションによって異なる。スイスで開発が進められているヘルスパスポートでは、COVID-19の感染歴から、対象となった個人に新型コロナウイルスに対する免疫があるかどうかまで示すことを目標としている。こうした特定の感染症に対する免疫の有無を示すヘルスパスポートは、特に「免疫パスポート」という名前で呼ばれている。

 そして議論の的となっているのが個人の移動記録を含めるかどうかというだ。健康診断の結果や、過去の病歴に関する記録は、特定の病原菌やウイルスのキャリアではないということを必ずしも証明するものではない。極端な話、感染症の検査を受けて「陰性」という結果が出た次の日に感染し、たまたま現在は潜伏期間で症状が出ていないだけという可能性もある。さらに不吉なことに、新型コロナウイルスの免疫はいったん獲得しても短期間で失われる可能性があるという研究結果も出ている。その場合、COVID-19への感染歴は必ずしも免疫の獲得を意味していない。

 そこで多くの国々で、個人の行動履歴をもとに、その人物が感染しているリスクを算出する(感染者と濃厚接触していないか、クラスターが発生した場所に出入りしていないか等の基準に基づいて)アプリケーションが開発されている。日本の新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」もその一つだ。

 残念ながらCOCOAのダウンロード数はまだ1500万回程度で、十分な効果が得られるほど日本国民の間で普及していない。しかし他の国では、既に生活の深い部分にまでこうしたアプリが浸透しているケースもある。

photo COCOAの画面

 例えば中国のIT大手・Alibabaなど、複数のIT企業が中国政府の要請を受けて開発したアプリ「健康コード(Health Code)」、ユーザーが個人情報を入力すると、その人が新型コロナウイルスに感染しているリスクが緑・黄・赤の3段階で表示される。これは個人の行動履歴や他人との交流に関する情報、また医療機関からのパンデミックに関する情報を組み合わせて判断されている。

 そしてこのアプリには、同じく緑・黄・赤の3色でQRコードを表示する機能が付いており、これリーダーで読み取らせないと、通行や入館、利用を許可しないという施設や交通機関等が現れている。こうすることで、感染リスクを確認する際の意図的な、あるいは単にミスによる見逃しや見落としを防いでいるわけだ。アプリの使用は強制ではないとされているが、それに基づいて利用の可否を判断する施設が増えれば、住民たちは否が応でも使わざるを得なくなる。そのため既に多くの中国人が、このアプリをインストールしていると見られている。

 こうした強権的な形でのヘルスパスポート導入には、抵抗感を覚える方も多いだろう。ただ人々の意識は、少しずつ変わってきているようだ。

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