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ハイプサイクルに新登場した「ヘルスパスポート」はウィズコロナ時代に何をもたらすか新連載「ウィズコロナ時代のテクノロジー」(3/3 ページ)

» 2020年08月31日 17時02分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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変化する人々の意識

 HR Techサービスベンダーの米Kronosが実施し、2020年8月に発表されたアンケート調査結果によれば、回答者(企業の従業員)の約半数(世界全体で48%、米国で50%)が、雇用主が従業員のスケジュールに関する記録をトラッキングし、職場で新型コロナウイルス感染者が出た場合には濃厚接触者を特定するなど、感染の防止に向けた取り組みを行うことについて、「非常に」あるいは「かなりの程度」賛成であると答えている。雇用主による接触者の追跡に対して、まったく賛成しないと回答したのは、世界全体で14%だけだった。プライバシー侵害の懸念よりも、感染リスクに対する不安の方が上回っているわけである。

photo Kronosが実施したアンケートの結果

 他のいくつかの類似アンケートでも、同様の結果が出ている。ウイルス感染対策というメリットがあれば、ある程度プライバシーを自らが所属する組織に公開することをいとわない、というわけだ。注目すべきは、個人の自由や権利意識の高い米国においても、この考え方に賛同する人々の割合が高くなっている点である。こうした傾向を受けて、新型コロナウイルス対策として行われる情報収集が突破口となり、民主主義の先進国でも中国型の監視・管理ツールの導入が進むのではないかと指摘する声もある。

 国際的な人権NGOである米Human Rights Watchは、「新型コロナウイルス関連のデジタル監視 各国政府は人権尊重を」と題された提言において、「各国政府は、感染爆発を監視・阻止するため、これまで以上にデジタル監視に着目している。現在24カ国が通信による位置情報の追跡を実施しており、14カ国がウイルス接触者の追跡または隔離の実施にアプリを使用しているとの報告がある」と説明している。少なくとも世界全体で見れば、新型コロナウイルス対策を通じた「デジタル技術による監視」が進みつつあるといえるだろう。

 現在はあくまでパンデミックという異常事態であり、新型コロナウイルスが消え去ることはなくてもある程度まで落ち着けば、また以前のような社会や生活が戻ってくるとの声もある。しかし社会に広く普及した技術やツールによって、人々の側の意識が変化するということもよくある。例えば印刷機の発明と普及は、最終的に宗教革命という形で権力すら揺さぶることとなった。私たちが「ウィズコロナ」の時代に向けて導入しつつあるテクノロジーも、社会を根本から変えてしまうかもしれない。

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