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2023年に1000量子ビット超えのIBM製量子コンピュータが登場か 並行して「巨大な冷凍庫」も開発中

» 2020年09月17日 13時15分 公開
[井上輝一ITmedia]

 米IBMは9月15日(現地時間)、量子力学の原理を利用して効率的に計算できる「量子コンピュータ」の開発ロードマップを公開した。2023年末を目標に、1000量子ビットの大型量子コンピュータの開発を目指すとしている。

IBMの研究チーム

 量子コンピュータの計算性能は、量子ビット数、エラー率、計算可能時間(コヒーレンス時間)などが指標とされる。IBMは2000年代半ばから量子コンピュータの研究を始め、19年には27量子ビット、20年9月には65量子ビットの量子プロセッサ「Hummingbird」を公開している。

 Hummingbirdでは8つの量子ビットの状態を読み出す配線を1本にまとめることで、配線を効率化。これにより、より多くの量子ビットを搭載するに当たって必要な配線数も減らせるとしている。同年には27量子ビットながら、同社が提唱する量子コンピュータの計算指標「量子ボリューム」(QV)で過去最高の64を達成した量子プロセッサ「Falcon」も発表。Hummingbirdに搭載した効率的な配線技術や、Falconに搭載したエラー訂正技術などの研究開発を進めることで量子ビット数の向上を目指す。

IBMの量子コンピュータ開発ロードマップ

 21年に向けては127量子ビットの「Eagle」、22年に向けては433量子ビットの「Osprey」をそれぞれ開発中という。Eagleには同社が開発したエラー訂正手法を実装でき、エラーが訂正された「論理的な量子ビット」の挙動を実機で研究できるようになる。Ospreyではさらにスケールアップしつつも、より効率的な制御や極低温環境を用意することで性能を犠牲にしたり、ノイズの発生源を増やしたりはしないとしている。

 そして、23年には1121量子ビットの「Condor」の公開を見込む。同社はこれが、全世界で最も優れたスーパーコンピュータよりも量子コンピュータの方が効率的に計算を行える「量子優位性」(Quantum Advantage)を達成しうると考えている。

 一方で、Condorやそれ以上の量子ビット数を搭載する大型量子コンピュータの開発には、量子ビットを極低温まで冷やすための「希釈冷凍機」に課題があるとしており、現在の市販の希釈冷凍機では巨大で複雑な量子コンピュータを効果的に冷却するのは難しいという。

 この問題を解決すべく、IBMは高さ約3m、幅約2mの「スーパー冷凍機」を開発中。100万量子ビットの量子コンピュータを冷やすことを念頭に置いてテストを行っているという。

 同社は「フォールトトレラントな(ノイズがあっても正確な量子計算ができる)量子コンピュータは今後10年以内に達成できる目標だと感じている」とした。

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