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「現場からは反発も」──現金手渡しの“昭和”な企業が経理の自動化ツールを導入するまで ジェフ市原の業務改善への道のり(1/2 ページ)

» 2020年10月22日 17時13分 公開
[安田晴香ITmedia]

 「社員やスタッフが立て替えた経費を、経理が毎月現金で手渡しする様子を見て、まるで昭和だと思いました」――そう語るのはプロサッカークラブのジェフユナイテッド市原・千葉を運営するジェフユナイテッドで、経理部門を統括する小林義幸さん(経営企画部財務部長)だ。

 同社は小林さん主導の下、経理業務を自動化する取り組みを進めている。「社内では反発もあった」(小林さん)というが、現在は経費精算にかかる時間を従来の2分の1に減らせたとしている。

 現金の手渡しで立て替え精算を行っていた“昭和”な企業をどう説得し、取り組みを進めたのか。「重要なのは経営層と現場の理解を得ること」という小林さんに話を聞いた。

photo ジェフユナイテッドの公式Webサイトより

総勢200人分の立て替え精算を手渡し

photo ジェフユナイテッドの小林義幸さん(経営企画部財務部長)

 ジェフユナイテッドはプロチームや下部組織の運営や選手の育成をはじめ、試合チケットやグッズの販売、営業、広報、集客などを手掛けている。サッカー教室やフットサルイベントの開催といったサッカーの普及活動も行い、社員以外にも業務委託契約を結ぶ監督やコーチなどチーム運営に関わるスタッフが多数いる。

 小林さんは2019年6月、ジェフユナイテッドの株主であるJR東日本から出向。経理担当は小林さん含め3人だった。着任した当時、経理のメンバーが社員やスタッフに精算分の現金を手渡ししている姿を見て衝撃を受けたという。

 それまでジェフユナイテッドでは、社員やスタッフが試合会場への交通費やボールなど購入費の領収書やレシートを、紙の状態で経理へ提出。経理がそれらを確認し現金を数え、社員やスタッフ約70〜200人分の総額100万円を毎月手渡ししていた。

 「紙の領収書やレシートを確認した後、現金を用意して手渡しという状態では手間と時間がかかります。領収書類に気付かず紛失する可能性もゼロではありません。お金をもらった・もらってないのやりとりもあり得ます。現金を手元に置いておくことも盗難リスクなどセキュリティ面からまずいと思いました」(小林さん)

photo 当時は現金を数え、手渡ししていた(写真はイメージ)

 精算フローを自動化できるツールを導入すれば、従業員やスタッフの負担が減り、経理も紛失や盗難などのリスクも抑えられる。小林さんは会社に掛け合い、業務を効率化していくことにした。

「それって必要?」現場が反発

 小林さんの提案に対して経営層も理解を示した。サッカークラブはスポンサーやファンから資金を預かり、クラブの運営に充てている。支出入の流れや精算フローの責任の所在を明らかにし、より高いレベルの内部統制を整備しなければならないというのが経営陣の認識だった。小林さんは「特に社長がツールの価値を理解し、導入に協力的だったのは助かりました」と振り返る。

 そこでまず小林さんは法人クレジットカードを作り、立て替え精算は振り込みで対応するようにした。次に、交通費や購入費の申請や承認をオンライン化し、勘定科目の仕訳作業なども行えるクラウド型の経費精算ツールを導入した。

 しかし問題は現場から理解を得ることだった。ツールの導入によって、社員やスタッフは申請や精算の方法を覚えなければならない。社内では「なぜ間接部門の経理のために新しい仕事をしなくてはいけないのか」「そもそも新しい方法にしなくてはいけないのか」という声が上がったという。

 そこで小林さんらは説明会を開催。申請がオンラインで済む、金額を自動計算することで間違いが少なくなる、紙の書類の紛失リスクが少なくなるといったツール導入のメリットを訴えた。「社員やスタッフがスムーズにツールを使えるよう使い方マニュアルも作成しました」と小林さん。懐疑的な声が上がるたび、社員やスタッフにとってのメリットや使い方を丁寧に伝えていったという。

photo 社内の反発を受け、説明会を開催した(写真はイメージ)

 ちょうどツールを本格的に使おうとしたタイミングで、新型コロナウイルスの感染が拡大。同社も3月下旬から在宅勤務の体制へ移行することになり、通常より短い準備期間でツールを導入できたという。「コロナの影響でデジタル化を進めたわけではないですが、偶然が重なって旧態依然とした方法が時流に追いつきました」(小林さん)

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