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iPhone 12、Pixel 5発売で改めて考える「5G」「ミリ波」とは何か(2/3 ページ)

» 2020年10月30日 08時45分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

「飛びづらい」電波を活用して高速で高効率なネットワークを実現

 そして、高周波を使うということは、次のもう1つの特性に大きく影響してくる。

 5Gは4Gとの共存を前提に作られているが、4Gとは現状(あくまで「現状」だ。詳細は後述する)帯域が異なる。すでに述べたように、周波数帯が高くなるほど電波は直進性が高くなる。そして、ミリ波ともなると、空気中の水分での減衰も無視できない。結果として「本当に遠くまで飛ばない」のだ。

 4Gで最も大きな基地局は半径数キロメートルのエリアをカバーするが、5Gの基地局は半径数百メートル、といったレベルだ。ミリ波はさらに飛ばず、数十メートルがせいぜい。極論すればWi-Fiと大差ない。

 遠くまで飛ばないとすればどうするのか? 小さな基地局を多数置き、連携してエリアを埋めることでカバーする。

 基地局が大きいことにはデメリットもある。1つの基地局がカバーする周波数帯の中に多数の人が入るので、多くの人が使った場合の通信速度が下がる。だが基地局を小さくし、多数の基地局でカバーするなら、速度維持がより容易になる。

 この「スモールセル」という考え方は昔からあるもの。1990年代のPHSがまさにスモールセルであり、3Gでも4Gでも、主に都市部で活用されてきた。5Gではスモールセルが基本になることに加え「Massive MIMO」も使われる。

 MIMOとは、送受信に複数のアンテナを使って通信品質を向上させる技術の総称。今ではWi-Fiから携帯電話まで、あらゆる場面で使われている当たり前のものだ。それを5Gでは、基地局に128素子・256素子といった超多数のアンテナを配置し、実現する。

 さらに、電波をピンポイントに絞り込んで届ける「ビームフォーミング技術」も前提となる。届きにくいミリ波の到達距離を広げるにも必要だ。これにはMassive MIMOで使うような多素子アンテナが必要となる。

 スモールセル同様、Massive MIMOも5Gだけのもの、というわけではないのだが、4Gで効率をあげるために使われた技術が5Gでは「前提」となる。基地局同士の連携もさらに高度な技術が必要になる。それによって、同じエリアに多くの人がいても、速度を維持して通信がしやすくなる。

 というわけで、「高速通信ができるものの電波が届かない」というデメリットを、新しい世代の技術を積極的に使うことでカバーするのが5Gの本質なのである。

飛ばないミリ波

 ここで話を冒頭に戻そう。

 現状、iPhone 12を含め、日本ではほとんどの5G端末がミリ波に対応していない。

 「あまり使われていない高い周波数帯をぜいたくに使って高速通信を実現する」という意味では、Sub 6よりもミリ波の方が理想に近い。「だから、ミリ波に対応していない5G端末はニセモノだ」という気持ちも分かる。

 しかし、である。

 現実問題として、ミリ波の運用はとても難しい。本当に、シャレにならないくらい電波が飛ばないのだ。アンテナと端末の間に人が立っただけで通信品質が悪くなるくらいである。

 スタジアムや建物の中などにミリ波のアンテナが設置され始めているが、そうした場所での利用実績が積み重ならないと、街中でミリ波がガンガン使われる状況にはなりにくい。

 海外でもそれは同様だ。ミリ波が「広くあまねく使えている」地域はほとんどない。

 アメリカ版iPhone 12でミリ波が採用されたのは、アメリカ最大手のVerizonがミリ波を積極利用しているからだ。だが、そのVerizonでも、ミリ波でのエリアカバーには苦戦しており、入る場所は限られている。

photo 米国版iPhone 12にはmmWaveの記載がある

 携帯電話はラフに使われるものだ。家庭で使われるWi-Fiと比較しても、アンテナの位置や電波強度を意識して使うことはまれである。現状世界的に見ても、そして日本でも、当面スマートフォンで使えるのはSub 6での5Gが中心と考えていい。それでもエリア展開には苦戦しており、4Gで当たり前になった「どこでも電波が入って通信ができる」という状況には程遠い。4Gでのエリアカバーが充実している日本の場合、特にギャップが大きく感じることだろう。

 「ならばそもそも5Gが今はまだ不要なのでは」

 その考え方も分かる。高い通信費を払う必要はまだない、と考える人もいるだろう。

 だが、その点は今後、多少変化がある。周波数帯活用の考え方に変化があるからだ。

 KDDI(au)とソフトバンクは、4Gに使っている電波の一部を5Gに転用する。具体的には、auがまず700MHz帯と1.7GHz帯を、ソフトバンクが700MHz帯と3.4GHz帯を5Gに使う。

 届きやすい周波数帯を使うことで、5Gのエリア展開は劇的に改善するだろう。要は、スマホの電波ピクトグラムで「5G」と表示されるエリアが広がるのだ。

 だが、NTTドコモはこのやり方に批判的だ。4Gで使っている帯域を転用しても、通信に使える帯域幅は広くならないからである。5Gとはいうものの、数Gbpsといった通信はできず、数百Mbpsという4G+α程度の速度にとどまる。また、4Gの帯域を5Gで使うということは、それだけ4G利用者の速度が落ちる可能性もある。ドコモは他社と異なり、4.5GHz帯にも5Gの帯域を100MHz分持っているため、こちらを積極活用する。

 ドコモの手法は通信速度的にはプラスだが、エリア拡大的には他社に比べ不利になる可能性がある。4G+αとはいえ、技術が進化した分多少速度は上がり、5Gのネットワーク側には4Gより余裕があるので、快適さでは勝る可能性も高い。

 この辺も含め、5Gの快適さや利用状況については、年末から来年にかけてで大きな変化が起き、1年ほどで「5Gがかなり使える」と感じられるようになる可能性は高い。「使い放題に近くなる」という料金体系を考えても、5Gにしておくことに意味がないわけではない。今日5Gに変えて変化を待つのも、変化してから5Gに切り替えるのも、そこはユーザー次第だ。

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