気球観測においては、上昇スピードも重要な要素になりますので、公開されている動画から放球時間と、最高到達点までに経過した時間も確認しておきましょう。
水平画像を撮影した動画では放球は12秒のタイミング、気球が破裂したのは1時間41分12秒のタイミングでした。
つまり上昇にかかった時間はちょうど1時間40分。推定では高度32kmほどに到達したようなので、上昇スピードは平均で秒速5.3mになります。
これは高層気象観測の気球の上昇スピードとしては少し遅めですが、撮影にはちょうどよかったといえるかもしれません。
高度32kmは、気圧にして10hPa。我々が生活している対流圏のさらに上に存在する成層圏と呼ばれる領域です。宇宙空間に入りつつあるように見えますが、この上にさらに中間圏、熱圏、外気圏と呼ばれる領域が続いています。
気球が破裂した際の、破片の飛び散り方にも注目してください。気圧が低いため、我々が普段目にするのとその様子は印象が違って見えるはずです。
ちなみに、観測を行うときに風船がどこまで割れずに上昇するかは運しだいという面があります。ラジオゾンデ観測を行う場合でも、30kmを越えるのは上出来な部類といえるでしょう。
気球が破裂したのち、観測容器はパラシュートの抵抗を受けながらゆっくりと地上に降下します。この時間にも注目しましょう。
映像では測器が地上に落下したのは2時間34分57秒の時点でしたので、落下には54分45秒かかっていることが分かります。速度にして秒速 9.7メートルです。
気圧の低い場所から高い場所に向けて落下していますので簡単には計算できませんが、1kg弱の容器がパラシュートの抵抗をうけて終端速度に達して落下するスピードとしては正しいオーダーだといえそうです。興味のある方は、パラシュートと容器の重さ、空気抵抗の半径を仮定して計算してみてください。
ニュースで紹介された映像では、富士山のような分かりやすい目印が映っていたことが紹介されていましたが、水平カメラと下向きカメラを注意深くみれば、さまざまな雲や地形を観察することができます。
たとえばこの日は前線通過後の季節風の影響で筋状の雲が日本海から入り込んでいましたが、画像の中でもそれらしきものや、地表付近の層状雲を観察することができます。
カメラが揺れていますので特定は困難ですが、途中雪に覆われたスキー場らしきものや、道の姿も確認できます。こうした小さなヒントから、気球がどこにいるのかをある程度推測することができるでしょう。
水平カメラからは曲面を描く地球の姿だけでなく、漆黒の宇宙との境目に青く浮かび上がる大気の層も見えるはずです。私たちが住む地球の大気がいかに薄く、たった数十キロ上空が、生存が許されない隔絶した世界であることが感じ取れます。
飯田工業高校OBのみなさんの今回の幸運を喜びつつ、今後の分析や報告に期待したいと思います。
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