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「Apple Silicon Macで4K編集」は実用に足るか?新連載「動画編集実務で計るM1 Macの実力」(1/4 ページ)

» 2020年11月30日 07時27分 公開
[小寺信良ITmedia]

 M1搭載MacBook Airを入手して実作業に投入している小寺信良さんに、4K動画編集マシンとしての新MacBook Airの実用度を検証してもらった。まずは、Final Cut Proを使った動画編集について。


 筆者は技術系のライターではあるが同時に映像技術者でもあるので、1年のうち半分ぐらいは映像コンテンツ制作やそれに関わる技術開発の仕事をしている。そんなわけでYouTuberほどではないが、しょっちゅう動画を撮影し、編集している。

 昨今はネットのライブ配信が全盛で、イベントやトークをリアルタイムで配信してしまって終わり、という動画コンテンツが増えた。こうした速報性やリアルタイム性があるコンテンツは、軽快に見られる事が優先させるので、ほとんどはHDかそれ以下の解像度で制作される。カメラやスイッチャーも、ほとんどはHD解像度でシステムが組まれるはずだ。

 一方で編集コンテンツにおいても、軽快に見られるという前提は変わらず、HDが最高解像度である事が多い。しかし収録素材としては4Kが主流になっている。例えば2人トークの2ショットを4Kで撮影しておけば、各1ショットはそこから切り出せばいいので、別途アップ用のカメラを用意する必要がなくなるからである。

 すでに多くのデジタルカメラやスマートフォンが4K撮影に対応しており、わざわざ高価なカメラを購入する必要もなくなった。スマートフォンでの4K撮影は、2014年ソニー「Xperia Z2」を皮切りに、翌15年にはApple iPhone 6s Plusが対応。それ以降、4K撮影は大いにハードルが下がったといえる。

 ただ編集となると話は別だ。4K撮影素材をそのまま編集するためには相当のマシンパワーが必要になる。筆者は2016年に13インチMacBook Proを購入したが、4K編集は単純なカット編集ぐらいはできるものの、複数レイヤーにまたがる合成などはそのままではできなかった。

 ではどうするかというと、「プロキシ編集」という方法を使う。これは4K素材から編集用の低解像度ファイルを作り、編集作業はそのプロキシデータで行う。最終に一本化して書き出す際に、元の4Kデータと差し替えてレンダリング処理するわけである。

 この方法なら、4Kはおろか8K編集でも対応できる。ただしレンダリング時間は別だ。この処理には元データを使うので、場合によっては数時間かかることがある。ただこの処理は人間が立ち会う必要がないので、昼間せっせと仕込み、夜中にレンダリングを仕掛けて朝結果を見る、といった使い方が普通だ。

 Appleの新プロセッサM1搭載Macは、11月17日の発売以降、ベンチマーク記事がたくさん出て処理能力が大幅に向上したことは分かっている。しかし具体的な実作業でどのぐらい効率が上がるのか、といった記事はまだ少ないようだ。今回は4K編集という具体的作業においてどれぐらい恩恵にあずかれるのか、という話である。

photo

実績で評価すると……

 今回比較するのは、筆者手持ちのマシン2台である。1つはこれまで使ってきたMacBook Pro (Late 2016) 、もう1つは今回新規購入したMacBook Air (M1, 2020) だ。スペックは以下のようになっている。価格は前者が19万8800円、後者が14万9800円と、ちょうど5万円の差がある。

機種名 MacBook Pro (Late 2016) MacBook Air (M1, 2020)
プロセッサ 2.9GHzデュアルコアIntel Core i5 Apple M1 8コアCPU
(Turbo Boost使用時最大3.3GHz) (高効率コア4と高性能コア4)
GPU Intel Iris Graphics 550 Apple M1 8コアGPU
メモリ 16GB 2,133MHz 16GBユニファイドメモリ
ストレージ 256GB PCIeベースSSD 512GB SSD
ディスプレイ IPS13.3インチ2560×1600 IPS13.3インチ/2560×1600
輝度 500nits 400nits
端子 Thunderbolt 3 / USB 3.1 Gen 2 x 4 Thunderbolt 3 / USB 3.1 Gen 2 x 2
タッチセンサー Touch BarとTouch ID Touch ID
photo 今回のテスト機。左が新MacBook Air、右が旧MacBook Pro

 両者を比較すると、プラットフォーム的にはProとAirの違いはあるものの、ディスプレイサイズも同じ、メモリ搭載量も同じである。ストレージは、M1で8コアGPUを選ぶとストレージが自動的に512GBからになってしまうので、なりゆきで2倍になっている。現在USB 3.1 Gen 2はUSB 3.2 Gen 2に名称変更されたが、ここではAppleのスペックシートの記載に従っている。

 使用する編集ソフトは、「Final Cut Pro」バージョン10.5だ。Apple純正の編集ソフトで、M1 Mac発売の少し前にネイティブ対応バージョンとしてリリースされた。

 編集するコンテンツは、ガチのお仕事コンテンツなので一部ダミー処理させていただくが、4K/30p動画素材2つをカラーグレーディングしてクロマキー合成、サイズ変更などを行い、文字テロップほか画像のPinPなどの処理、音声トラック2つに音楽Mixを加えた、約28分の動画コンテンツである。最大画像レイヤー数は6、音声処理も合わせると同時9レイヤーとなる。

photo 28分のクロマキー収録対談コンテンツでテスト

 これだけの合成になると、旧MacBook Proでは素材そのままではタイムライン上でリアルタイム再生できないので、プロキシ編集を行う事になる。ソニー製のカメラには、撮影時にプロキシデータも作ってくれるものもあるが、Final Cut Proではソフト上で生成したプロキシデータしか利用できないため、プロキシ作成もソフトウェア処理となる。

 例として4K撮影した約35分のクリップのプロキシデータ作成には、旧MacBook Proでは約38分かかる。処理中でも別の作業はできなくはないが、いじっているとその分だけバックグラウンド処理に回っているプロキシ生成が遅くなる。撮影素材が多いほど、プロキシ生成が完了するまでにかかる時間が長くなる。

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