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コロナ禍、M1 Mac──2020年、自分の仕事環境がどう変化したのか振り返り、2021年を予測してみる(2/3 ページ)

» 2020年12月03日 07時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

コロナ禍で「PCに対する考え方」が変わった

 で、「iPadで原稿を書くのが快適かもしれない」と本気で思うようになったのは、2020年3月にiPad Proがリニューアルし、さらに4月に「Magic Keyboard」が出てからだ。MacよりもWindowsよりもレイテンシが短く、サクサクと文章が書ける機械になったな……と思ったのだ。冗談のように、同業者には「高くて電子書籍が読めるポメラ」と言っていたのだが。

photo iPad Pro用Magic Keyboardの登場

 これが実に快適だった。PCやMacは隣で情報検索とファイルの整理に使い、原稿自体はiPad Pro(12.9インチモデル)+Magic Keyboardで書く……というのが基本になっていた。コロナ禍で外に出ないにもかかわらず、だ。

 一方で、ビデオ会議が増えるにつれ、「ビデオ会議にはiPadは向かないな」とも思い始めた。カメラもマイクも、PCやMacより良いのだが、アプリやサービスの進化やバーチャル背景の活用という点で、自由度の高いPC/Macはやっぱり有利なのだ。

 結果的に、ビデオ会議はほぼPCで行うようになった。カメラやマイクはMacよりSurfaceの方が上。さらに、バーチャル背景に「Snap Camera」を使い、キータイプノイズを消すために「Krisp」を使うようになると、その差は明確になった。USBでマイクをつなぐことを考えてもPCの方がいい。

 そうすることで、「自宅の荒れた様子を見せない」「できるだけ良い音で話す」といった形を実現するためにPCを使い、原稿とメモのようなテキストワークはiPad Proで行う……という形の仕事スタイルになってきた。コロナ禍での発想変化の中で、一番大きいのはこうした部分である。

 MacかWindowsかは、やっぱりどっちでもいい。ただ、ハードとしてのMacの弱さが、Macの利用比率を下げる結果になっていた。まあ、プレゼンが必要なときには「mmhmm」を使うためにMacを使ったのだが。

 iPad Proで原稿を書く上で問題だったのは、iPadOSの完成度が一定しないことだ。iPadOS 14世代は日本語入力にかなりの不具合を抱えており、iPadOS 14.2になってようやく安定した。夏から秋にかけての忙しい時期に、「これではなかなか厳しい」と思うときが多かったのも事実だ。一番だめな時は結局PCで原稿を書くこともあった。

 だがそれでも、3月から10月くらいまでの半年間、私が発表した原稿(月にだいたい20万字だから、都合140万字くらい)のほとんどは、掛け値なしにiPad Proから生み出されている。ちなみに、文字入力のレイテンシは、macOSの場合、最新の「macOS Big Sur」になって少し短くなった。差は240分の4秒(約0.017秒)くらいだが、そこはプラスである。

 なお、「メモ中のタイプ音を録音の中にいかに残さないか」という部分についてはちょっとした成果があるのだが、それを説明し始めると長いので、来週のメルマガでご説明することにして、ここではまだ秘密としておこう。

まさかM1がここまで「できる子」だとは……

 ところが、この辺の環境がころっと変わる事件が起きた。Appleの「M1版Mac」発売だ。

 正直、そこまで期待はしていなかった。

 性能が高いのは予想通りである。「モバイル系CPUとして、一般的な処理の範疇でIntelを超えるだろう」というのはある意味自明で、「速い」ことを騒ぐつもりはほとんどなかった。

photo M1チップ

 予想として、「まあ速いし消費電力も下がるだろうが、ソフトウェアや周辺機器の互換性の問題もあるから、1日目から仕事にバリバリ使えるなんてことはなかろう」と思っていたのだ。

 ところが、そうではなかった。

 Appleは今回、恐ろしく良い仕事をした。100%の互換性ではないが、「これはダメだろう」と思うようなものでも動き、さらに場合によってはIntel版よりも快適になる……という完成度の製品を打ち出してきたのだ。

 しかも、ソフトのApple Silicon対応が速い。この原稿を書いている段階でまだ発売から2週間しか経っていないのに、続々と対応アプリが増えている。仕事上クリティカルなもので不具合があるのはLightroomくらいだ。

 こうしたパフォーマンスは「バッテリーであろうがAC接続であろうがほとんど変化はない」ことも分かってきた。これは、PC/Macとしては画期的なことだ。

 AppleはMacの自社半導体移行について、相当に慎重かつ長い計画で取り組んでいたのだろう……と思っている。

 互換レイヤーである「Rosetta 2」の動作速度と安定性は、ハード・OS一体化設計の賜物というだけでなく、開発と検証自体を長くやった結果としか思えない。

 その裏には、GPUを扱うAPIを、少々強引なまでにMetalへと統一した成果もあるだろう。Metalを使うアプリケーションについて、Intel版とは大きな性能差になっているのが何よりの証拠だ。

 「ここ数年macOSはあんまり進化しないな」と思っていたのだが、今思えば、これは意図的なものだったのかもしれない。あえてOSは大きく変えず、iOSも含めた互換レイヤーへの準備を裏で進め、今回一気に提供した。その成果が、「アーキテクチャ移行後の初モノとは思えない」完成度につながっているのだろうと思っている。

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