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印鑑にデバイス装着、押印をブロックチェーンに記録 “次世代ハンコ”は紙とデジタルの橋渡し役になるか(2/2 ページ)

» 2020年12月28日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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ブロックチェーンの不可逆的な仕組みが情報の真正性を担保

 先進的なシステムであるIohanだが、もしIohanで押印した契約案件でトラブルが発生し、訴訟などに発展した場合、ブロックチェーンに記録された情報に証拠能力はあるのだろうか。

 これについて峨家氏は「ブロックチェーン上の記録を証拠として用いた日本国内での判例を知らず、法的根拠について現時点で確定的なことはいえません。ただ、紙の文書に印影が存在する事実は揺るがないので、それが本人による押印であるという事実を補強することは間違いありません」と説明する。

 なお、内閣府、法務省、経済産業省が6月に連名で公開した「押印に関するQ&A」には、次のように明記されている。

民事裁判において、私文書が作成者の認識等を示したものとして証拠(書証)になるためには、その文書の作成者とされている人(作成名義人)が真実の作成者であると相手方が認めるか、そのことが立証されることが必要であり、これが認められる文書は、「真正に成立した」ものとして取り扱われる。

 峨家氏が言うように、ブロックチェーンに記録された情報を裁判所がどのように判断するのかは、現時点では分からない。ただシステムの性質上、ブロックチェーン上の記録を改ざん・削除できないのは確かだ。「押印に関するQ&A」にあるように、相手方に本人性・真正性を主張する情報として、過不足ないといえるだろう。

photo Iohanの使い方の詳細

紙ベースの契約と電子契約が共存するシステム

 では、Iohanのビジネス面に話題を移そう。昨今はテレワークの普及に伴ってペーパーレス化が進み、「クラウドサイン」「DocuSign」「GMO電子印鑑Agree」といった電子契約サービスの需要が高まっている。ユニークな仕組みのIohanだが、こうしたサービスがひしめき合う電子契約市場に参入し、顧客を獲得できるのか。

 この点について峨家氏は「(他の電子契約システムは)ライバルではなく、共存・共栄が可能です」と主張する。CryptoPieは11月からリース会社の東銀リース(東京都中央区)と組み、他社サービスとの連携に向けた実証実験も始めているという。

 企業間で契約を締結する場合は、両社が同じフォーマットで契約書を作成・保管するのが一般的だ。一方が紙の契約書、もう一方が電子契約サービスを使うのはありえない。だが今回の実験では、これの実現を目指しているという。

 例えば、電子契約サービスを使っているA社と、紙ベースの契約を望んでいるB社が契約する場合、まずは両社のスタッフがIohanで紙の契約書に押印する。続いてA社は、押印された紙の契約書をスキャンして電子化し、電子契約サービスの文書管理機能などで保管する。B社は、従来通り紙ベースで契約書を保管する。

 この際、両者が保管している契約書はデジタル・紙ともに、Iohanによって押印されたという事実、ハンコの真正性、押印の本人性を担保できる。このように、電子契約サービスと連携することで、文化が異なる企業同士の契約を成立させることに、Iohanは活路を見いだしている。

 「今後はIohan単体でサービス提供するというよりも、この実証実験のように、プラットフォームやアプリケーションの一部として活用する道を探っていきたいです」と峨家氏は展望を語る。

 冒頭で示したように、行政文書の認印の多くが廃止されても、民間における実印・公印の制度が簡単になくなるとは思えない。一方で、早くから契約のデジタル化を進めている企業も確かに存在する。ハンコを巡る混沌とした状況下で、Iohanはこれから、紙とデジタルの橋渡し役になれるのか。

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