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50代文系副社長、AI学んで1000時間 1人で作ったアプリが大手食品メーカー採用に至るまでの軌跡(2/3 ページ)

» 2020年12月29日 10時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

 そこでまずはプログラミングスクールに通うことと、目標を決めて自宅で学習することを決めた。自宅学習の目標は1年で1000時間。「平日2時間、休日5時間やれば1週間で20時間。これを1年やればだいたい1000時間になる」(坂元さん)

 プログラミングスクールでは2カ月でPythonの基礎を学び、その後は機械学習のスクールにも通った。市場調査を今まで手掛けてきた関係で統計の知識はあり、機械学習の考え方には入っていきやすかったが、どうしたらそれをコードで表現できるかは初めはさっぱりだった。

 当初は業務時間外で始めた。重要な経営課題ではあるものの、この取り組みを会社としてのプロジェクトにできるか分からなかったからだ。プライベートを週20時間もプログラミングとAIに費やす日々となったため、家族には「口を開けばAIのことばかり」とあきれられた。

 「形になりそうだ」と分かったのは、開発を始めてから5カ月ほど。PoC(概念実証)的に作ったモデルで、デザインに対する実際の評価とAIの評価の相関が低いながらも0.3程度出せた。さらに議論を重ね、相関が0.5まで上がった。「そこで社内のプロジェクトとしていける確信を持てた」

経営リーダーからAIエンジニアへ業務シフト

 社内プロジェクト化となると、これまで副社長として携わってきた経営に関する業務との整理が発生する。

 「当然、通常業務は軽減させてもらった。なんでも屋的なところが私にはあるので、リサーチで難しい案件があると私が入ることもあったが、そういうものを減らした。今は通常業務が2〜3、AIの業務が7〜8になっている」

 従業員数が70人とフットワークが軽く、最近合併したばかりだったこともあり、業務の移行は比較的円滑にできたという。

 今までの仕事とAIエンジニア、どちらが好きかと記者が聞くと、坂元さんは一拍置いて答える。

 「AIエンジニアって研究職的なところが結構ある。例えば相関を0.1上げるにはいろんな組み合わせを試さないといけない。1回計算するのに1時間はかかる。その結果として相関が0.01でも上がるとすごくうれしい」

 「今までできなかったことができる。画像処理や自然言語処理が今ではAIでできるようになって、とてもスピーディーに可視化できる。これが非常に魅力的。内容は難しいが、キャッチアップしていくのが自分の成長に感じるし、それが会社の成長ともリンクしていてやりがいを感じる。だから、社長や経営陣よりも今の仕事が天職に近いのではないかと」

50歳で東大に“入学”

 笑顔でインタビューに答える坂元さんだが、プログラミングと向かい合っているときは眉間にしわを寄せていることも。新しい方法を試しても相関が全く上がらず、ただ苦しいときもあるという。

 AIの実装に当たって、坂元さんが門を叩いたのが東京大学の相澤・山崎・松井研究室(情報理工学系研究科)だ。同研究室の山崎俊彦准教授と1.5カ月に1回のペースで会議を設け、アドバイスをもらった。

 「単にコードを教えてもらうのではなく、『こんなアルゴリズムがあるから実装してみては』と投げかけてもらうスタイル。それをググりながら実装してみた結果こうなったと定例会で報告すると、山崎先生から20個くらい質問が来る。その中で10個くらいを試してみて、次のお題に移る流れ。1年間で60個くらいのお題をいただいた」

 「先生はコーチングがとてもうまい人で、研究室に所属する学生に対しても、コーチングしながらいいところを伸ばしている。私もそんな感じで学生の一人として扱ってもらっている」

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