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パンデミックが促す企業の新たな競争力 コロナ禍でも成長するビジネスウィズコロナ時代のテクノロジー(2/2 ページ)

» 2020年12月30日 08時32分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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デジタル化に満足する企業

 一方で英リバプール大学のレポートからは、このいわば「強いられた」デジタル化から、企業が成果を得始めてる様子がうかがえる。

 今回のパンデミック下でデジタル技術への投資を行ったと答えた回答者うち、23%が、その投資から利益が回収できたとしている。さらに44%が、これから1年以内に利益が出ると予想しているそうだ。またCOVID-19への対応として導入したテクノロジーが、ビジネスモデルに変化を生じさせたと回答したのは81%で、特に大きな変化が生まれたと答えたのは26%に達している。この研究ではネガティブな影響については調査されていないものの、パンデミックのためにやむなくデジタル化を進めた企業であっても、かなりの割合で具体的な変化やメリットを手にしているという結果が出ている。

 他にも同様の結果を示しているレポートが存在している。例えば米VMwareとMITテクノロジーレビュー誌が共同で行った調査によれば、対象企業の75%が、今回のパンデミックでデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが加速したと答えている。さらにデジタル投資の予算増加を計画していると答えたのも、全体の33%に達した。

 また人材サービス企業のオランダ・Randstadが経営幹部を対象に行った調査では、デジタル投資によって自社の収益にプラスの影響が得られたと答えたのは、回答者の64%に達している。さらに78%もの回答者が、現在のデジタル投資が、長期的にリターンをもたらすだろうと予測している。またパンデミックによって表面化した課題に対処するため、主要な技術分野のスタッフを増やしていると述べた企業も48%に達し、本腰を入れてデジタル化に取り組もうとしている姿勢を見ることができる。

 確かに企業にとって、COVID-19の流行は予想しえなかった事態であり、デジタル技術の導入はやむを得ない措置だったかもしれないが、多くの企業はその結果に満足しつつあり、さらなる投資に前向きな姿勢を示していることを、各種の調査結果が示している。

 さらにこの結果は、今回の対応が仮に「強いられた」ものであったとしても、それが一時的なものではなく、継続的な変化として根付く可能性が高いことを示していると考えられる。前述のリバプール大学のレポートにおいて、同大学のアンドリュー・レバーズ博士は、「多くの企業は、DXによってCOVID-19からの回復を図ろうとしているだけでなく、長期的に持続可能な競争優位性を確保しつつある」と指摘している。やむを得ずという後ろ向きな対応ではなく、パンデミックを乗り越える力がもたらす新たなチャンスを感じているからこそ、景気後退による業績悪化の中でも、多くの経営幹部がデジタル投資の増額に踏み切っているのだろう。

 実際にGAFAの一画を占める米Amazonは、デジタル技術を駆使し、結果的にとはいえパンデミック下で最適なビジネスモデル(ECビジネスや多くの業務の自動化・ロボット化、そして他社のデジタル化を支援するAWS事業等)を構築していたことで、2020年度第2四半期の決算報告では、四半期利益が52億ドルに到達した。これはAmazonの26年の歴史の中で過去最大となる額であり、十数万人という単位での追加雇用も行っている。あらゆる企業がこれほどまでの成功を収められるものではないが、新型コロナウイルスと共存する「ウィズコロナ」の世界であっても、成長は可能であるという姿を示している。

 冒頭で述べたように、英語の「検疫」という言葉は、過去に起きたパンデミックから生まれたものだ。他にもワクチン開発やその予防接種という仕組みなど、感染症は社会にさまざまなものをもたらし、現代社会を形作る要因の一つとなってきた。過去に社会の変化に直面した人々も、私たちと同じように、過去へのノスタルジーや未来への不安を感じたに違いない。しかしそれを経て定着した技術と同様に、いま導入されつつあるデジタル技術は、社会に新たな活力と競争力をもたらす存在になると期待できるだろう。

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