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NHKの公式note開始は“成り行きの未来”との決別になるか(2/5 ページ)

» 2020年12月31日 07時00分 公開

 NHKが新たに活用する「note」は、元ダイヤモンド社編集者の加藤貞顕氏が2011年に設立したnote社が運営するプラットフォームである。会員数は260万人。いわば一般の“素人”が自由にコンテンツを投稿する舞台といえる。多くの書き手を発掘していることで知られる。

デスク3人が書いた文書から分かる「取材ノート」開始の背景

 NHK公式「取材ノート」開始の狙いについて考える上で、参考になる文書がある。「取材ノート編集部」のデスク3人が10月13日付で書き上げた内部文書「NHKのためのイノベーションリポート 目指すべき公共メディア像」である。

 30ページを超える熱文を筆者が独自に入手した。3人がレポートで訴えているのは、メディアの未来を踏まえた変革の必要性である。「取材ノート」に関係すると思われる一部を抜粋する。

photo 「NHKのためのイノベーションリポート 目指すべき公共メディア像」

「NHKのためのイノベーションリポート 目指すべき公共メディア像」

私たちはどう伝えるべきなのか」より抜粋

 従来から「テレビに視聴者を回帰させなくては」「テレビの演出をもっと視聴者ファーストにしなくては」という議論になり、そうした点での努力だけが行われてきました。それらは必要なことではありますが、それが最適の「ブランディング」だという考えは大きな誤解です。

 その種の努力では、視聴習慣のない視聴者はテレビには来てくれません。そして、いま本当に注力すべきは、「テレビに戻ってきてもらう」ことなのでしょうか。私たちは「テレビ」という極めて発信能力の高い伝送路に安住してきたのではないでしょうか。従来から「どういう内容を発信したいのか」「誰に伝えたいのか」によって、発信の内容や演出を変える努力はしてきました。ただし、それはテレビという小さな枠の内だけでのことでした。

 今や、「どういう内容か」「誰に伝えたいか」によって、どういったメディアやツールを使って発信すべきかをまず検討し、選択する必要があります。とにかくテレビで、という選択肢から変えていかなければなりません。

注釈:伝送路=伝達手段や伝達のためのプラットフォームの意

データ分析の重要性」より抜粋

 デジタルがテレビと異なる点は、読者の反応をダイレクトでかつ数値化できる点です。視聴率と違い、報道局で導入しているチャートビートでは、4秒ごとにPVの分析ができます。アクセス数だけではなく、どれくらい長く記事を読んでくれたか、どんなツールで、どのように記事にたどりついたかも測定できます。つまり、「読まれたのか」「満足してもらったのか」など、読者を一定程度、理解するための数値がリアルタイムで分かるということです。

 テレビでの評価軸は、結局は内輪での主観的な評価に偏りがちでしたが、デジタルは客観的なデータとして検証に利用できます。もちろん、PVが全てではありませんが、そうしたデータをもとにした業務改革=DXを行うことはでき、一部で始まっています。ただ、要員不足もあって全面展開には至っていません。データを元にしたPDCAサイクルでの業務改善は、一般企業では当たり前になっており、この部分の改善も必須だと考えます。

目指すべきは1億人のためのパーソナライズもはやあらゆる伝送路を使うしかない」より抜粋

 ユーザーを理解し、ユーザーのために最適化した伝送路を使う必要があります。テレビはそのうちの一つでしかなく、テレビを使うことが最適なコンテンツのために使うものでしかありません。

 重要な見解がいくつも含まれている。「もはやあらゆる伝送路を使うしかない」「ユーザーのために最適化した伝送路」あたりは「取材ノート」開始の動機そのものといえる。

 「伝送路」とはプラットフォームのことである。これは何もコンテンツを届けることに限った話ではなく、NHKの存在意義の一つである防災・減災報道についても同様である。

 例えば、津波警報を知らせて一刻も早く避難を呼び掛けたいとき、テレビ・ラジオを持っていない人には放送は届かない。届けようがない。

 そうした人たちに最適化した伝送路(NHKニュース・防災アプリのプッシュ通知など)を使って避難を呼びかける必要があるだろう。報道局の最高幹部が、局内の会議の場で職員を前に「テレビの時代は終わる」と訓示したのは2016年のことだった。

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