ITmedia NEWS > 製品動向 >

NHKの公式note開始は“成り行きの未来”との決別になるか(3/5 ページ)

» 2020年12月31日 07時00分 公開

 以上で述べたようなNHKの現場の認識(危機感でもある)が「取材ノート」開始の背景にあるといえる。その上で、2つの問いが浮かぶ。

  1. なぜ既存のNHKのサイトに「取材ノート」を書かないのか?
  2. 外部プラットフォームを活用するとして、なぜnoteを選んだのか?

 筆者はこうした疑問をNHK取材ノート編集部のメンバーにぶつけてみた。

なぜ既存のNHKのサイトに「取材ノート」を書かないのか

松枝デスク NHKのサイトへのアクセスも増えているが、固定のファンの方が多い。どうしてもサイトを通じて記事を読んでくれる視聴者・読者の層が固まってしまう。他の人たちにも「ちょっとNHKのコンテンツを見てみませんか?」というぐらいのアプローチができないものかと考えていた。

 特に現役世代に届けたかった。NHKも記者は20〜30代が中心だが「同世代に届いていない」という不満が現場にあった。記者と同世代に読んでもらえるとしたらどういう書き方で、どういう届け方をすべきか常に考えていた。考え方の順番としては「デジタルをやりたい」というより「若い世代に届ける手段としてのデジタル」。その上で、外部プラットフォームの力を借りるのも一手だと思った。

熊田デスク さまざまな規制をクリアしなければならないことは前提で、伝送路はたくさん持ちたい。NHKが作るコンテンツを多くの人に届けたい。開始から3年目の「政治マガジン」の読者は着実に増えているが、やはり常連の読者の方に読んでもらうことが多い。新しいユーザーにアプローチするために、新しい伝送路が必要だった。

なぜnoteを選んだのか

足立デスク 「取材ノート」はこれまでNHKのサイトに掲載してきた記事とコンセプトが異なる新しいコンテンツになる。取材のストーリーやノウハウを書くときに、多くの人が熱い長文を自由に書いている「note」というプラットフォームは雰囲気が合うなと思った。

 NHKには、放送という枠にはとても収まらないとてつもない熱量を持った人間が多くいる。ある意味面倒な人が集まっている(笑)

 今回の「取材ノート」開始は、彼らに蛇口をつけてあげた感じ。蛇口をひねれば熱量がほとばしる。

松枝デスク 「note」の世界観がよかった。書き手が心情を吐露していたり、優しいコミュニティーが形成されたり、NHKがこれから「取材ノート」を通して伝えたい、届けたいと思っていることと近かった。


 「取材ノート」構想のきっかけは、2019年4月、デスク陣が、早稲田大学でnote社の加藤氏の話を聞いたことだった(熊田デスクを筆頭に、NHKには休日も講演や勉強会の場に足を運ぶ者が少なくない)。そこから1年あまりNHK内外の調整と準備を行ってきたという。

 実は今回の「取材ノート」はNHKのサイトにも同じ内容のものがアップされている。放送法によって存在するNHKには規制が多いからだ(テレビ・ラジオの放送こそ本来業務であり、インターネット活用は補完業務という位置付けである)。外部プラットフォームのみに公開するような活用の仕方はできないのが現状だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.