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NHKの公式note開始は“成り行きの未来”との決別になるか(4/5 ページ)

» 2020年12月31日 07時00分 公開

 かくして2020年12月14日、NHKがnoteに1本目の記事を投稿する。

 タイトルは、「NHK公式『取材ノート』、はじめます」

 記事では、「取材ノート」を始める目的とコンセプト、今後どのような記事を展開していくかを紹介した。

「テレビ」このメディアが持つ影響力の大きさや魅力を私たちは実感し、信じ、誇りを持ってニュースを伝えてきました。一方、テレビで放送できるニュースは1本あたり数十秒から数分程度。

 「取材結果の100分の1も伝えられなかった」

photo 初投稿記事の一部

 その上で、(1)取材ノートの公開、(2)取材ノウハウの公開、(3)視聴者・読者とつくるノート──という3つの方針を示している。

(1)取材ノートの公開

 これは手書きのノートを撮影して画像を公開するという趣旨ではなく、取材する側の思いや素顔を紹介するというもの。書き手は記者だけでなくアナウンサー、カメラマン、デスクまでさまざま。年齢も問わない。

 すでに公開されている2本の記事は、いずれもこの(1)に属する。

 チョウに人生を費やす記者がブータンにまで飛ぶ物語と、NHKで唯一の視覚障害がある政治記者と周囲の支えの記録である。

 文体や内容から、非常に自由に書かれていることが分かる。これまでのNHKの記事とは明らかに異なる。NHKが記事を発信(出稿)する場合、報道情報端末の原稿作成ソフトで記者が原稿を書き、デスクが原稿の手直しや再取材を指示。デスク権限による「決済」(※汎用化という)を経て初めて原稿を世に出せる状態になる。

 ところが今回のnoteは、NHK内の原稿作成ソフトを一切、通過しない。書き手はnoteに直接、書く。当然、取材ノート編集部のデスク3人が内容を確認するが、これまでの記事のように細かく手直しすることはなく、書き手の熱量をそのまま生かす。

 「チョウに人生を費やす記者」は当初、10万字(!)の原稿を書いて寄こし、取材ノート編集部を驚かせたという(さすがに長すぎるということで公開時には短くなっている)。

 noteでは、飾らない内容も紹介されていきそうだ。

 例えば「NHKで唯一の視覚障害がある記者」の記事は、生放送の本番中に文字が見えなくなるシーンから始まり、読み手も一瞬緊張するが、「プロンプターというモニター画面がある。記者は、目の前の画面に映った原稿を読み上げていけばいい。便利な道具だ」などと多くのNHK記者に「特徴的」とされる棒読みの原因もネタばらししており、こうした面もnoteならではといえる。

photo 「取材ノート」で公開中の記事(12月31日時点)

(2)取材ノウハウの公開

 「これまで私たちは取材の結果を『ニュース』としてお届けしてきましたが、その『過程』や『ノウハウ』の部分はほとんど公開していませんでした。取材過程はニュースではないという考えからです。しかしこのnoteではそうした『非公開』だった部分も公開していきたい」

 この点について熊田デスクが興味深い解説をしてくれた。

 「ノウハウや取材過程を可能な範囲で公開する目的には、今なかなかメディアが信頼されていない中で、信頼回復のために説明責任を果たすことが重要だろうという考えがある。説明責任を果たすことは、NHKだけでなくメディアみんながやらないといけない。ジャーナリズム全体のための信頼回復が必要」

 「NHKに蓄積された取材ノウハウの発信が、もし他のメディアの人たちの学びになるのであればうれしいし、NHKがそれらを提供できる存在になっていけるといい」

 取材過程そのものも、報道には使われないだけで実は優れたコンテンツ(読み物)であることが多いのだ。投じたリソースで得られたものをあますことなく使い切ってコンテンツに変えていける。

(3)視聴者・読者とつくるノート

 テレビは得てして一方通行の放送となりがちだ。ところがインターネットは「双方向」のやりとりを可能にする。

 NHKには好例がある。戦後75年を迎えた2020年、NHKはアニメ映画「この世界の片隅に」に着想を得てキャンペーン「#あちこちのすずさん」を立ち上げた。

 すると孫世代が祖父母から掘り起こしたエピソードにハッシュタグ「#あちこちのすずさん」を添えてSNSに投稿した。

「空襲で焼けた実家に戻ったら、お釜に水を張って入れていたお米が炊けていた」

「ばあちゃんと婚約して軍需工場にきたじいちゃんが鉄くず盗んでばあちゃんに指輪作って持ち帰った」

 こうした取り組みは「取材ノート」でも大いに期待される。

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