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大手芸能事務所が「N高」と組む理由 “好きなことで自分探し”がエンタメ業界の糧に

» 2021年02月04日 07時15分 公開
[本田雅一ITmedia]

 角川ドワンゴ学園が運営する通信制高校「N高等学校」(N高)と芸能プロダクションのワタナベエンターテインメントが提携し、「ワタナベNオンラインハイスクール」を今年4月に開校する。どこにいても歌や演技のレッスンを受けられる完全オンライン授業だが、ワタナベエンターテインメントの吉田正樹会長によるとコロナ堝の前から構想はあったという。

「ワタナベNオンラインハイスクール」のWebサイト

 N高は角川ドワンゴ学園が2016年に始めた通信制高校。オンライン授業とレポート提出を中心とした教育カリキュラムが特長で、全国どこからでもオンラインで“通学”できるのが特長だ。現在の生徒数は1万5000人超と日本で最も大きな通信制高校に成長したが、注目したいのはN高カリキュラムの外にある活動だ。

 N高では対面式の授業やテスト、通学を省いて生まれた時間を生徒の個性を伸ばすプログラムに活用する。例えば村上世彰氏が特別顧問を務めるN高投資部は、村上財団が用意した部員1人当たり20万円の資金をもとに、実際に株式市場に投資をしながら”お金”について学ぶ。

 N高投資部は課外授業の一種だが、より専門性の高いスクールとの協力関係も築いている。例えば「バンタン高等学院」では、ファッション、ヘアメイクなど様々な専門分野を学べる。EXILEなどが所属するLDH事務所の流れを汲む「EXPG高等学院」は、フィジカルトレーニングからダンスレッスンまで、ダンサー育成を目的とした様々なプログラムを提供する。

 これら“提携スクール”ではN高のカリキュラムで高校卒業資格を取得しつつ、将来に役立つ専門技術や知識を身に付ける。高校と専門学校に同時に通うようなイメージだ。そしてワタナベNオンラインハイスクールも提携スクールの1つになる。

エンタメ教育で自分探し

ワタナベエンターテインメントの吉田正樹会長

 ワタナベエンターテインメントはタレントの発掘や育成のため、これまでも対面式のスクール事業を展開してきた。現在、全てのスクールの生徒数を合計すると約1800人。多くの子どもたちが歌、ダンス、演劇、コメディなどを学んでいる。

 こうしたスクールに通う生徒たちは”演者”としての将来を明確に描けている目標がハッキリした子ばかりだ。しかしワタナベエンターテインメントの吉田正樹会長は「具体的な夢の形をまだイメージできていない、将来の目標を探している子たちもエンターテインメントの世界に触れることで表現力を身に付け、ぼんやりとした目標から具体的な将来像へと近づける場を提供したいと以前から考えていました」と話す。

 生徒にとっての間口を広げるため、完全オンラインでどこに住んでいても参加できるエンターテインメントスクール。一見、コロナ禍でオンライン化する流れの中で生まれた企画に思えるが、吉田会長は否定する。「以前から場所に縛られないエンターテインメント教育のあり方を模索していました。ただ、コロナ禍でグループ内の授業をオンラインで実施することになり、その中でカリキュラムのノウハウが蓄積され、実現を早めることができました」。

 カリキュラムとして歌、演技、モデル、ダンスの専門的なレッスンを用意する。しかし第一学年については「自分がどんなエンターテインメントに向いているか」「何が得意なのか」を見つけられるプログラムにしているという。

 例えばN高の特徴でもあるティーチングアシスタント制度をレッスンに取り入れる。ティーチングアシスタントは、将来の目標を同じくする先輩が在学生を支援する制度。第一期生募集時点では、既存の対面型スクールの出身者が対応するという。また自分自身の適性や魅力が分からない生徒に向け、エンターテイナーとして自己分析を行う“自分の魅力発見プログラム”も用意する。

 「エンターテインメントの世界に触れ、そこから芸能人を目指す子もいるでしょう。一方でYouTubeやTikTokなどを通じネット上で自分を表現するインフルエンサーを目指す、あるいは裏方に回ってエンターテインメントを創造したいと考える子も出てくるかもしれない。身につけた表現力をビジネスの場で生かす人も生まれると思います」

 もちろん本気で芸能界を目指す場合にはワタナベエンターテインメントの他のスクールと同様、オーディションなどを通じてワタナベエンターテインメントに所属し、デビューを目指す道がある。そのためのレッスンも本格的だ。

 「コロナ禍の中、私たちは対面型スクールでもオンラインを取り入れてきました。その中で、講師の細かい動きを画面上で拡大して確認したり、録画を繰り返し見て復習できたりというオンラインならではのメリットがあることを発見しました。グループ校ではニューヨークやロンドンで活躍する講師が現地から直接レッスンも行っています。これもオンラインならではの長所。こうした試行錯誤を経た(ノウハウの)蓄積があるからこその開校です」

 コロナ堝でライブエンターテインメントは大きな制約を受け、ビジネスは必然的に変化せざるを得ない。ライブのオンライン化もさまざまな形でトライアルを進めているが、どのような形に落ち着いていくかはまだ見えない。

 新たな発想でエンターテインメントを生み出す才能が求められる時代にあって、全てオンラインで完結する今回の取り組みには、演じる側だけではなく、エンターテイメントを生み出す人材の発掘にも期待しているという吉田会長。それはワタナベNオンラインハイスクールが間口を広げた理由にもつながる。

 「コロナ禍でエンターテインメント市場全体は縮小しています。しかし、オンラインで学べる環境を提供することで、若い世代がエンターテインメントに触れる機会を増やし、新しい才能を持った人材を育成したい。ひいては業界全体の発展にもつなげたいと考えています」

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