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Clubhouseで楽しさを知った会話の「輪」はさらに広がる 「音声」の重要性を改めて考えてみた(2/2 ページ)

» 2021年02月25日 07時08分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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「データ定額」時代の通話常識とは

 一方、通話については、音声のコスト構造を大きく変えるものが現れる。といっても、別に最近のことではない。固定回線では20年近く、モバイル回線でもここ数年普通になり始めた「使い放題」という考え方だ。

 その昔、音声通話は「距離」「時間」で価格が決まっていた。長距離通話料金の低価格化と、携帯電話による通話が基本になってくることで、音声通話のコストは「時間」ベースになった。

 だがそれも、音声をデータ通信の上に乗せるのが当たり前になると、データ量によらず料金は一定、という形になるため、「通話し放題」になっていく。電話を中心とした特殊なものだけが時間単位での課金になっている、といってもいいだろう。この点は、年齢が上で、電話とともに過ごしてきた世代であればあるほど、どこかで勘違いしがちになる。

 若い学生の間では、「友人との間でLINEの音声通話をつなぎっぱなしにして勉強する」というスタイルが当たり前になっている。ひところ流行った「Zoom飲み会」も同様だ。そもそも、オンライン会議は「通信定額」でないと安心してやりづらい。

 携帯電話などの通話に時間単位課金が残っているのは、「ある程度確実に着信するインフラ」の整備にはコストがかかるためでもある。とはいえそこでも低コスト化が進んだために、通話定額のような料金体系も提示されるようになってきた。

 データ定額(もしくは大容量プラン)があるなら通話定額は不要と思う人がいるのは当然で、そういう使い方がようやく定着してきた感はある。一方で、電話としての確実な着信や、遅延がより低く信頼性の高い通話を求める人もいるだろう。だが、そこはやはり、「音声での対話についてどのような印象を持っているか」というこれまでの習慣的な部分が色濃く出ているのではないかと思っている。だとするならば、コロナ禍でオンライン会議を体験した人が増えた今後は、「通話は定額でなくてもいい。そこはネット通話で済ませる」という人がさらに増えるのではないか、と予想できる。

 KDDIの「povo」やソフトバンクの「LINEMO」は、低価格プランでありながら、通話定額を外して月額料金を下げ、1カ月の利用データ量を20GBにしている。若い層を狙ったプランだから、と説明されることが多いが、これは、上記のような事情を考えれば納得できる話ではある。一方で、NTTドコモの「ahamo」に「5分以内の通話定額」がついているのは、電話サービスについて、より保守的な考え方であるとも感じる。

 楽天モバイルは、通常の電話回線通話は他社と同じく、30秒あたり20円という「時間課金型」であるにも関わらず、自社アプリRakuten Linkによるネット通話を推し、「通話ゼロ円」をアピールする。まあそれはそうだろう……と思うし、正しい方向性だと思うが、この二重構造を自然に理解して使うには、意外とリテラシーが必要であるようにも感じる。

低遅延や空間オーディオ、新しい「音声コミュニケーション」の可能性

 このような背景の中でClubhouseが出てきた。サービスの評価についてはいろいろあると思う。これがこのまま定着するのか、一時の流行に終わるのかは分からない。

photo 現在もApp StoreのSNSランキングで2位(1位はLINE)

 だが、Clubhouseのもたらしたものは2つあると分析している。

 一つは、気軽に会話の「輪」を作れることだ。先ほど、「イベント待ちの廊下の会話が重要」という話をしたが、Clubhouseはこれに近い。場の設計として、話者とオーディエンスが分かれていつつも、話者の中にも気軽に入っていける構造を持っているのは、ちょっとした「仲間内の会話」感があり、さらに、それを人が聞く楽しさもある。カジュアルなトークショーを作る場としての価値は高い。

 そして二つ目は「遅延の小さな対話の場の大切さ」だ。正確に測ってはいないが、ClubhouseはZoomやTeamsなどと比較しても音声の遅延が小さい。そのため、人と話すときにより噛み合いやすく、お見合いになりづらい。遅延の小さな通話サービスは他にもあり、主にゲーマー向けに使われている「Discord」が有名だ。実際、Discordで会社のチームの音声チャットルームを作ると、遅延が小さいので「バーチャル出社のようだ」という評判もあるくらいだ。遅延の小さい音声通話には価値があるのだが、遅延は目に見えづらく、ZoomやTeamsの勢いが大きかったために目立ちづらい部分があった。

 だが、Clubhouseは、改めて「遅延の小さい対話空間」の価値を知らしめてくれた。今後出てくるサービスでは、同様に、遅延の小ささをアピールするサービスも増えるのではないか、と思っている。

 音声通話には、まだ開拓できていない方向性もある。それは「対話する向きやゾーン」の再現だ。Facebook CTO(最高技術責任者)のマイク・シュレーファー氏に先日インタビューをした。そこで彼は、VRでのオフィス環境の可能性について、こんな話をしている。

この1年でわれわれは、2Dの画面を使ったリモートワークの楽しさと限界を学んだはずだ。だが、ビデオ会議では、2〜3人が同時に話したり、隣の人とだけ軽く会話をしようとしたりしても、うまくいかない。しかし現実の世界では、みんなが顔を向けて1人の人を見つつ、どこで話しているのかを理解できる。『空間化された音声』として届くからだ

photo 2020年9月にオンライン開催された「Facebook Connect」の基調講演映像より。音の届く範囲や方向を要素として組み込んでいくことで、バーチャル空間でのコミュニケーションはより快適なものになる可能性が高い

 誰がどこにいて、音声がどこからどの方向に届くのか、という技術が自然に使えるようになれば、確かに、音声での対話はもっと自然で楽なものになるだろう。

 ステレオで聴こえる音声、というのは基本的な要素だが、音楽や映画で「空間オーディオ」が重要になるように、コミュニケーションでも同じような要素が大切になる時代が来るかもしれない。その時には、Clubhouseのように音声だけで成立するのではなく、映像とセットになって体験を変えるものになるのだろうとは思うが。

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