3月7日、音声チャットSNSのClubhouseでHyperCardの思い出を語るルームができたのでのぞいてみた。米国在住のプログラマーであるBasuke氏と、テクノロジーライターの大先輩、大谷和利氏の2人でHyperCardの歴史を語るといった進行で、いろいろと懐かしい話が飛び出した。そのトークはBasuke氏のポッドキャストで公開されている。
そういえば、と当時のことをいろいろ思い出したので、筆者のHyperCardの思い出を語ってみたいと思う。
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年3月15日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)も3月からスタート。
HyperCardをご存じない方も今は相当いらっしゃるだろう。名前は聞いたことあるが実際には使ったことないという人もいるはずだ。
HyperCardとは、OS X以前の旧Mac OS(macOS)上で動いた、カード型データベースである。OSに無償でバンドルされていたため、そこから多くの作品が生まれた。データベースから作品、というと変な感じがするが、最初の頃のHyperCardは簡単に使えるデータベースとして業務に導入されていたりしていたのだ。
しかし実際は、データベースにとどまらない多彩な機能を有していた。モノクロのお絵かきツールである「MacPaint」の機能を丸ごと搭載して画面に絵を描くことができたのだ(開発者は同じ、ビル・アトキンソン)。HyperCardはカード型の画面が積み重なっているので、複数枚の違った絵を描いておき、ディゾルブで次のカードを表示すると、パラパラ漫画の要領でアニメーションが表示できた。
また画面内に配置するパーツとして、ボタンやテキストボックス、表組みなどが用意されていた。それらのパーツの中にHyperTalkという言語でスクリプトを書いておくと、ボタンやテキストをクリックしたら特定の動作をするといった具合に、画面構成を決めて何らかの目的に合うものを作れるという、オブジェクト指向言語の仕組みを取り入れた開発プラットフォームでもあった。
筆者が最初にMacを買ったのは1990年のことで、SE/30というモデルだった。当時は音楽のシーケンサーとして使うはずで、MIDIインタフェースなども買い込んだのだが、いつの間にか音楽よりもMacそのものの方が面白くなってしまった。
HyperCardで作られるファイルは、「スタック」と呼ばれた。当時は、HyperCardでアニメーション作品が作られており、それが商品として流通する時代だった。フロッピーディスク数枚組で、絵本のように売られていたのだ。絵は描けるが発表するチャンスがない、そういう人たちがこぞってデビューした。当時そうしたアニメーション作家たちは、「スタック作家」と呼ばれていた。
無料でバンドルされていたHyperCardに筆者が興味を持ったのも、そんなことが始まりたった。ただ絵を描くことには興味がなく、もっぱらプログラミングの勉強としてHyperTalkに取り組んでいった。HyperTalkは記号がほとんど使われず、英文に近い構文で成り立っていたので、理解しやすかった。
そんなこともあって筆者が最初に作ったスタックは、確定申告表を自動計算してくれるツールだった。実際にそれで数年間、確定申告の書類を作っていたものだった。もちろん当時から会計専用ソフトはあったのだが、確定申告のために高いお金を出して年に一度しか使わないものを買うのはどうなんだと思ったのである。
で、その確定申告用のスタックを無償で公開したら喜ばれるかもしれないという気持ちはあったのだが、会計士でもないのに処理の細かいところまで分からないし、仕分けや勘定項目なんかも自分に関係あるものしか知らないので、アップロードは断念した。
その代わり、何かみんなが楽しめるものでアップロードできるものは作れないかな、と考えるようになった。当時、NIFTY-Serveのアーカイブにアップロードするというのは、何だかコンピュータソフトの「作り手デビュー」のような立ち位置だったのだ。
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