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センサーシールを皮膚に貼って「アルコール、カフェイン、ブドウ糖、乳酸、血圧、心拍数」を同時計測Innovative Tech

» 2021年03月20日 07時56分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが開発した「An epidermal patch for the simultaneous monitoring of haemodynamic and metabolic biomarkers」は、首元の皮膚にシールのように貼り付けて血圧と心拍数を継続的に追跡しながら、同時にブドウ糖、乳酸、アルコール、カフェインのレベルを測定する電子パッチだ。超音波で血圧と心拍数をモニターし、その他は電気化学センサーで計測する。

photo 皮膚に貼り付けて使用する電子パッチ

 

 これまでも皮膚に貼り付けてバイタルサインなどを計測するアプローチはあったが、心臓の信号と複数の生化学的データを1つのデバイスから同時計測するデバイスはなかった。今回は電気化学センサーと超音波トランスデューサーの2種類のセンサーを用い、全ての数値の計測を行う。

 電子パッチは、皮膚に順応できる伸縮性のあるSEBS(水添スチレン系熱可塑性エラストマー)で作成した薄いシートをベースに、導電性のインクで電極や回路を印刷し形成する。

 電極の一つは皮膚上の化学物質を感知し、汗をかいた後の乳酸、アルコール、カフェインを検出する。皮膚のすぐ下にある液体中のグルコースを測定する別の電極は、皮膚の上に軽度の電流を流して間質液を抽出し、その液中のブドウ糖を測定する。

 超音波は、皮膚の下4cmの深さで脈動する血管の動きを検出することで、血圧と心拍数を非侵襲的に測定する。超音波を体内に送り、動脈からの反射をセンサーが検出し、信号を血圧測定値に変換する。従来の多くの計測器のように表面上だけで血圧測定していないため、より正確な数値を観測可能だ。

photo 超音波を使って皮膚の下の動脈の動きを計測する

 実験では、複数の被験者にエアロバイクでの運動、高糖質の食事、アルコールやカフェイン入りの飲料の摂取などを行ってもらい、電子パッチからの数値を取得した。その結果、電子パッチの測定値は、市販の血圧計、血中乳酸計、血糖計、飲酒検知器などの計測装置によって収集された数値とほぼ一致したという。皮膚に装着したまま電子パッチをねじったり曲げたりしても正確に計測できることも示した。

 現在は測定値を表示するために、電源とマシンに接続する必要があり、完全ワイヤレスではない。研究チームは、今後の課題として完全ワイヤレス化を目指すという。

 今回の電子パッチは、基礎疾患のある人やスポーツ選手が定期的に自分の健康状態をモニターするのに役立つだけでなく、着用者の負担を最小限に抑えて計測できることから、患者の遠隔監視も可能だとしている。

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