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東北新社の認定取消で明るみに出た「使われぬ電波」 影響わずか700人、4K向け“左旋”放送の意味を問う(2/2 ページ)

» 2021年04月16日 06時52分 公開
[小寺信良ITmedia]
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BS左旋に使い道はあるのか

 放送衛星が打ち上がり、アナログBS放送がスタートしたのは平成元年(1989年)のことであった。映像業界ではその5年ほど前からすでに「レンタルビデオ」の普及によるバブルを迎えつつあり、加えてテレビ放送のチャンネルが増えるということで、映画配給事業とポストプロダクション事業を行っていた東北新社は、加速度的に成長していった。筆者が東北新社のグループ会社で新社会人となったのは、そんな時代だった。

 日本全国どこでも同じ放送が受信できる衛星放送は、放送局が少ない地方にとっては、都会の文化が直接受信できる、夢の放送システムであった。

 だがケーブルテレビの普及、そしてネットの普及を経た現在、映像コンテンツ伝送手段として、一方通行の衛星電波という方法論は、もう古くなってしまった。モバイルでどこでも受信でき、家庭内でも4K・HDRが楽しめるネット配信で多くの人はもう十分なのだ。莫大な税金を投入して、笛吹けど誰も踊らなかったインフラ跡地だけが残された格好だ。

 地上波で4K放送が望めない現状では、衛星4K放送の可能性を否定するものではない。新規の受信設備構築が必要なのであれば、例えば新幹線や飛行機、車といった交通手段に受信設備を搭載し、プレミアム感のあるコンテンツとして使っていくといった方法は考えられる。ただ、移動体放送はこれまでことごとく失敗してきたという「前科」があり、やはりコンテンツの質と量がそろわないと難しいところだ。

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 加えて一般家庭内における固定受信では、「通信より放送の方がよかった」と思えるシーンがほとんどないのが正直なところである。それならいっそ、公共性を捨てて、産業・教育用として使っていくという方向性で行くのも1つの考え方だろう。定時に操業が始まる工場や、学校、塾、予備校のようなところでは、決まった時間にしか見られないという放送のメリットが出やすい。

 いずれにしても、政府主導で血税を大量に注ぎ込んだのにほとんど誰も見てないというインフラであることがバレてしまったBS・左旋は、政策の失敗ということになる。誰かが詰め腹切らされて終わりではなく、真面目に使い道を考えていく必要がある。

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