そんなことを最近考えていたのだが、それに少し近い感覚を思い出すエピソードがあった。
先日、東宝スタジオで開催されたNetflixのオープンラボを取材した時のことだ。このイベントは、いわゆる「バーチャルプロダクション」に関するもので、記事も書いている。
そこで一つのテーマとして紹介されたのが、「乗り物の中での映像を撮影する際のテクニック」だった。
乗り物の中の映像を撮るのはなかなか難題だ。狭くて制約が多く、安全性の問題もある。思うような場所で、希望する気象条件で撮影するのは難しい。とはいえ、外の映像が合成丸出しのシーンを見た時のがっかり感は大きい。
そこで出てくるのがバーチャルプロダクションだ。
車の外にLEDディスプレイの壁を作り、そこに現地で撮影したオンボード映像を流すことで、「思った場所」「思った条件」でドライブシーンの撮影ができる。セット構築のコストはかかるが、リアルな映像を安全かつ確実に撮ることができる。現地に行くスタッフの数は最低限で済むので、コロナ禍での移動制限にも対応しやすい。
とはいえ、バーチャルプロダクションにもいろいろと工夫が必要にはなる。
筆者が見たデモの場合には、6Kカメラを複数台組み合わせて撮影した映像を使っていた。LEDディスプレイによる背景の課題は、背景にピントを合わせるとモアレが生まれることだ。だから背景は「ボケる」ことが基本なのだが、それでも、面積が広く解像感がないとリアルにはならない。
さらに、光量を補うため、表示している映像にあわせたライティングを施し、反射・映り込みなどを強化する。カメラに映っていない場所の映像も大事になるのだが、その理由は、カメラに映っていない部分のLEDディスプレイからの映像が、自然な映り込みを実現するためのライティングを兼ねているからなのだ。
ポイントとして挙げられた中で興味深かったのが「映像の高さ合わせ」と「振動対策」だ。
大柄な6Kカメラを普通に搭載して撮影すると、視界が高くなるので「乗用車から見た映像」としてのリアリティーがなくなる。そのため、台座を作った上で車高が低くなるオープンカーにカメラと台座を乗せ、その結果として高さが自然になるようにしていたという。また、撮影時の振動が大きいと映像に不自然なブレが出るし、映像のつなぎに問題が出る。そこでブレ防止にも相当な神経を使ったようだ。ただ、結局、「車自体のサスペンションの効果が最も高かった」そうだが。
背景をそうして演出することで、撮影された映像は非常にリアルなものになる。それは、実際に現地で走行しつつ撮影する時と同じような「ちょっとした反射や光の変化」が、スタジオワークで再現できるからに他ならない。
これらの仕組みはまさに配慮の塊なのだが、結果として、「Drive & Listen」で感じたようなリアルさにつながっているのが面白い。
結局のところ、われわれが「リアル」と感じる要素は「普段意識していないような部分」に多数あり、それをいかに再現するかが問題になるのだろう。そのための技術は揃いつつあり、それをいかに組み合わせるかがカギといえそうだ。
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