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初音ミク×中村獅童の超歌舞伎「御伽草紙戀姿絵」はどう作ったか 超会議・超歌舞伎総合プロデューサーに聞いた 「江戸時代の歌舞伎はフジロック」(4/7 ページ)

» 2021年05月28日 08時59分 公開
[納富廉邦ITmedia]

コード進行みたいな感覚で素材を組み合わせる

−− 面白いのは、例えば、三代目猿之助さん(二代目市川猿翁)が始めた「スーパー歌舞伎」とか、十八代目勘三郎さんがシアターコクーンと組んだ「コクーン歌舞伎」、菊之助さんの「マハーバーラタ戦記」や新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」などの新しい歌舞伎のムーブメントの中で、デジタルと融合している超歌舞伎が、演出や作劇では一番、古典を踏襲していることです。

横澤 そうですね。僕が歌舞伎を分析した結果、歌舞伎って全てがメタ化されていると思ったんですよ。そのメタ化され、最小要素まで分解されたパズルのピースを、どういう風につないでいくかというのが歌舞伎の作劇だと感じたんです。

 音楽でいうコード進行みたいな感じで、このコードの次にこのコードではつながらないとか、Cの次はGがつながりやすいとか、そういうロジックで素材を組み合わせていくのが僕は歌舞伎だと思っているんですね。

−− それは、江戸後期の歌舞伎の作者と同じ考え方ですよね。お岩さんの怪談と忠臣蔵をつないだら面白そうだといって「東海道四谷怪談」が出てくるような。

横澤 もう、最小限の単位まで要素がメタ化されていると思っちゃえば、何でも取り入れられるんですよね。いろいろ作っていくと、「じゃあ、脚本は? 演出は?」とかなるんですけど、そうじゃなくて、「何に対して傾(かぶ)くのか」ということが重要なんですよ。

 多分、傾くってそういうことで、その「for」が無いと難しいジャンルなんです。だから、僕は先に、そこを決める。今、お客さんはどんなことに悩んでいて、どんな風に解決したいと思っているか、そういうところを考えて、メッセージを決めれば、そこから見せたい風景が出てくるし、風景が見えれば登場人物が決まって、そうなればストーリーも決まるという作り方なんです。

 民衆の体制に対する不満とか苦しみを聞いていくと、どうしても体制に対して傾いていくじゃないですか。それを演劇化、エンターテインメント化して楽しむのが「傾(かぶ)き」であり「歌舞伎」の本質だなあと思うんです。だから、ずっと歌舞伎は幕府に弾圧されてきて、でも、その度に、知恵と工夫で生き延びてきたんだと思うんです。

photo 飛び交うコメントも超歌舞伎の一部。時に掛け声になり、時に解説にもなる

−− 本当に、江戸の人みたいにして作っているんですね。

横澤 僕はもともと、物事をメタ化して組み直すというのが得意なので、歌舞伎がとても合ってたんですね。0から1を作るより、あるものを組み合わせて、新しく見せていくというのが、僕の得意なプロデューシングの方法論ですけど、それもただのオマージュじゃなくて、細分化してメタ化した上で、因数分解して再構成することで、全く別のものに見せていくのが好きなんです。

 それは説明のコストを下げることにもなるんですね。今や、かつての江戸の歌舞伎と同じで、見る側がいっぱい情報を持ってるから、それを引き出して、本編ではそこを省略した方がコストは下がるんです。背景を説明するよりも、お客さまに埋めてもらう。

 超歌舞伎でも、それをメチャクチャ考えました。今回、切腹のシーンやだんまりなどの、歌舞伎ならではの演出を取り入れたんですが、それも、サブスクリーンでコメントが解説してくれるんですよ。ニコ動の皆さんの解説芸が輝きましたよね。イヤフォンガイドの文字版みたいで、あれも、一つのコンテンツになっているなあと感動しました。

photo 大薩摩と三味線弾きとして登場する鏡音リン・レン。それぞれ、拡声器と三味線を手にしている。レンの歌とリンの速弾きの三味線のシンクロぶりに観客も沸く

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