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初音ミク×中村獅童の超歌舞伎「御伽草紙戀姿絵」はどう作ったか 超会議・超歌舞伎総合プロデューサーに聞いた 「江戸時代の歌舞伎はフジロック」(5/7 ページ)

» 2021年05月28日 08時59分 公開
[納富廉邦ITmedia]

ボカロと歌舞伎の世界観を融合する

−− 古典の演出で言えば、今回、大薩摩(主に大詰め近く、大立ち回りの前などに、歌い手と三味線の二人が登場して場を盛り上げる音楽を演奏する演出)を鏡音リン・レンでやりましたよね。

横澤 あれは、脚本にあって、ただリソース不足もあって実現が難しく、大薩摩はやめようかという話になったんですよ。でも、超歌舞伎で大薩摩はやったことなかったし、僕的には見たいと思ったので、「リン・レンでやれない?」って言ったんです。

 コナンみたいな感じで拡声器持たせれば声の違いとかも気にならないんじゃないかなと言ったら、「めっちゃ面白いっすね」と演出の藤間勘十郎さんも言ってくれて。

−− あの拡声器の演出見て、「これこそ超歌舞伎だ!」と思ったんですよ。

横澤 あれ、歌舞伎っぽいですよね。あそこをリン・レンの声でやっちゃうと、大詰めに向けて絞まりがなくなると思ったんですよ。だから、変声器としての拡声器を持ったリン・レンで、でも唄自体は長唄でやってるというのが、歌舞伎とミクさんファンたちの融合になったと思います。

−− 大薩摩のシーンや他の長唄のシーンなどでスクリーンに詞を出したのも良かったですね。何を歌っているのかががちゃんと分かる演出。

横澤 ボーカロイドのMVとかでもタイポライズが中心の時ってあったんですよ。やっぱり、メッセージ性が高い曲については、歌詞を見てほしいというのがあったと思うんですよ。

 それと、大薩摩の「これから行くよ」というメッセージ性を合わせると、ボカロの世界観と歌舞伎の世界観が合うと思って、今回、タイポライズを使ったんです。やっぱり大薩摩の詞は聞き取りにくいし、言い方も蜘蛛を「ちちゅう」と言ってたりして分かりにくいですから。

photo 大薩摩から立ち廻りになって、さらに義太夫の語りが入り、ついに獅童さんが白狐丸を抜いたところでボカロ曲「ロミオとシンデレラ」。そこから一気にフィナーレへ

−− 超歌舞伎はボカロと歌舞伎の融合なのに、他の新しい歌舞伎に比べて、音楽的にも三味線音楽を使うことが多いですよね。

横澤 例えば、スーパー歌舞伎の場合、歌舞伎を普段やっている人たちが歌舞伎をアップデートしようという試みですよね。だから、歌舞伎が新しいものを取り入れるという発想になります。僕は逆で、新しいものにいかに古いものを融合させるかという発想なので、より古典的なものを追求していく発想になるんです。ベクトルが逆なんですね。

 その両方が歌舞伎として成立するというのが、歌舞伎という芸能の懐の深さですよね。それと、僕は「間」で考えるので、古典音楽の方が扱いやすい。長唄だと「間」に合わせてどう切ってもつながるけど、現代音楽は切りにくいんです。そして、長唄などの古典音楽でずーっと行って、最後、「チョン」と柝が入ってボカロ曲が掛かると盛り上がるんです。

 今回なら、早立回りがあって最後にドンと「ロミオとシンデレラ」が掛かった時の「待ってました!」感。意外と印象は最初と終わりが持っていくので、そこが現代になっていれば、最終的には新しいものに感じてもらえると思うんです。

photo 今回、役者とミクさんの距離を近づけ、デジタル部分とアナログ部分を混ぜるためのさまざまな工夫が凝らされた

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