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初音ミク×中村獅童の超歌舞伎「御伽草紙戀姿絵」はどう作ったか 超会議・超歌舞伎総合プロデューサーに聞いた 「江戸時代の歌舞伎はフジロック」(6/7 ページ)

» 2021年05月28日 08時59分 公開
[納富廉邦ITmedia]

初音ミクとの芝居が「混ざった」

−− 超歌舞伎をずっと見ていて、今回、とても役者とミクさんの距離が近づいたように思ったのですが、そこには、デジタル技術の進歩などもあったのでしょうか。

横澤 まず、これまでは、役者がミクさんに合わせて動いていたんですが、今回、ミクさんに合わせなくても良い箇所も入れられるようになりました。

 ミクさんは映像なので、そこに役者さんが合わせて芝居をするんですが、役者さんの芝居を待って、それに合わせてキュー出ししてミクさんに喋らせるXタイムの演出も可能になったんです。

 それで、ここは役者さんがたっぷり芝居しそうだとか、本番だともっと間を詰めていくことになりそうだとか、そういう部分はXタイムでやるようにして、テンポ感良くやろうという部分はミクさんのタイミングを固定して、役者さんに合わせてもらうようにしました。

 その辺りは、役者さんたちと、裏方というかキューを叩(たた)くわれわれとの間の呼吸が6年目にして合ってきたことと、デジタル技術でできることの進化が、うまく噛み合っているなと思っています。そもそも、役者さんたちが慣れてきてくれたというのがありますね。

−− 最初の頃は、舞台上に役者さんと一緒にミクさんが立っているだけでも感動的だったのですが、ずっと見て、完成度が上がっていくにつれて、役者さんとミクさんが真横に並べないことなどがもどかしく感じられていました。それが今回、あまり無かったんですよ。そこには、何か秘密があったりしますか?

横澤 今回は、本当に「混ざったな」という自信はありました。特に今回、僕が一番こだわったのは、スクリーンの角を見せないということだったんです。舞台セットとスクリーンを混ぜるというのが、僕的には課題だったんです。

 例えば上のスクリーンの角に破風を掛けたりとか、下のスクリーンの端に道具を置いて、ミクさんはその向こうから出てくるとか、そういうことを考えました。人の視覚は、レイヤーを脳で認識すると、そこが浮き出て見えるんです。

 最背面でも浮き出で見えて、あたかも役者さんとミクさんが並んでいるように錯覚するというような手法も考えました。横にべたっとなっていると、獅童さんの後ろにいるとしか見えないんですけど、獅童さんの横にも道具を置いてレイヤーを作ってやると、浮き出て見えるんです。

 今回、ディラッドボード(3Dのミクさんを投影する仕掛け)を道具としてではなく背景の一つとして捉(とら)えて、スクリーンはスクリーンとして使うけれど、スクリーンが要らないときは閉じようと考えて、そこに襖とかを置いたりしました。

 実は、スクリーンの端を見せないというのは、1作目のときから提案はしていたんです。端が見えると人はスクリーンだと認識しちゃうけど、見えなければ、結構、錯覚してもらえるんですよ。ただ、それをうまく説明できずに、現場ではなかなか分かってもらえず、今回、ついに実現したという感じです。

 こういう仕掛けは現場でないと試せないのが難しい。実際、事前の合同でのリハはできないので、舞台稽古で初めてみんなが顔をそろえる。だから、みんな舞台稽古で「そこってそうなるんだ」って言うんですよ(笑)。

 だから、マージは全部、その場で調整することになるんです。それがメチャクチャ楽しいんですけど、説明が伝わりにくいことも多いんです。今回はコロナ禍もあって、幸か不幸か時間があったので、じっくり説明することができました。

photo キャノンによる会場に舞い落ちる蜘蛛の糸の演出

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