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初音ミク×中村獅童の超歌舞伎「御伽草紙戀姿絵」はどう作ったか 超会議・超歌舞伎総合プロデューサーに聞いた 「江戸時代の歌舞伎はフジロック」(3/7 ページ)

» 2021年05月28日 08時59分 公開
[納富廉邦ITmedia]

江戸時代の歌舞伎はフジロックみたいなものだった

−− そういう大きな物語の中で、今回は源頼光四天王と平将門の娘をメインにした、歌舞伎でいうところの「前太平記」の世界での物語になっています。こういう物語に決めた経緯を教えてください。

横澤 僕は毎回、この「歌舞伎の事典」(藤田洋著、新星出版社)に載ってる写真から自分が見たい絵を探るんですよ(といっぱい付箋を付けた同書を開く)。

 例えば、3年目の「積思花顔競」は、「これが見たい」って、この「楼門五三桐」(さんもんごさんのきり)の南禅寺山門の場面の写真(有名な「絶景かな絶景かな」のシーン)をスタッフに見せたところから始まってるんです。

 「こういう絵面を作りたい」と話して。今回は、この「紅葉狩」の写真(美女が鬼女に変じて頼光に襲いかかっている写真)ですね。これと、蜘蛛の糸がばーっと降る感じが見たくて。紅葉の世界観を作ってみたいと思ったんです。「ずーっと桜だからなあ」とか(笑)。

 そうやって、松竹の超歌舞伎のチームに見せると、彼らは、演目とか全て頭に入っていますから、「こういうのあります、こういうのもあります」って、もう、「何年にやった芝居のこのシーン」みたいな感じでいろいろ出してきてくれるんですね。その映像を見ながら「あー、これこれ!」とかいって、「ここはこれとつないで」みたいな感じで、みんなで構成していく感じですね。

 それから、松岡さんが準備稿を書くのと平行して、僕は楽曲の選定に入って、お互いの世界観をマージしていくんです。

photo 「歌舞伎の事典」は、歌舞伎の代表的な演目をカラー写真と文章で紹介する演目ガイド。ここで横澤氏が提示する写真と、実際の脚本のメインとなる演目は必ずしも一致しないのが面白い

−− 基本は絵面でつないでいくんですね。それは、後期江戸歌舞伎の作られ方に近いような気がします。

横澤 僕は全部、絵面ですね。「積思花顔競」をやったときなんかは、僕が全部イメージボードを描いてました。というのも、僕は歌舞伎をそんなに見ていないんですね。スーパー歌舞伎「ワンピース」が初めて見た歌舞伎ですから、明らかに手持ちの歌舞伎のアーカイブが少ないんです。

 そうなると、歴史を見に行くしかないんです。なぜ歌舞伎が作られたのかとか、浮世絵を江戸時代の人はどう楽しんでいたのか、というところを見ていくと、「ああ、なんかヒーローショーみたいだったんだなあ」とか「朝から夜まで、お酒飲んで、ご飯食べながら、遊興的にステージとか見て、フジロックフェスティバルみたいだなあ」とか思い至ったんですね。

 それで、そういうムードに合わせた「見たい絵面」をどうつなぐかとか、デジタルを緩急つけて見せたいとか、そういうことを考えて作っていきます。

photo 今年も、恒例の獅童さんとミクさんによる口上から始まる。屏風(びょうぶ)を置くことで、ミクさんと獅童さんの距離が近くなって見える

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