ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >

国宝「救世観音像」を8K画質で3DCG化 「現地調査以上の情報量」と仏像研究者も驚嘆

» 2021年06月22日 20時36分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 NHKと東京国立博物館は、8192×8192ピクセル(約6700万画素)のテクスチャー17枚を使い、国宝「救世観音像」の8K画質の3DCGモデルを作成した。NHKが6月18日に仏像研究者向けにCGモデルを公開したところ、「現地調査以上の情報量を得られた」と、再現性の高さに驚きの声が上がった。

救世観音像の8K画質の3DCGモデルを使ってデジタル調査会が行われた

 このCGモデルは、奈良県・法隆寺に所蔵されている救世観音像の形状を3Dスキャナーで測定し、一眼レフカメラで400カ所以上のアングルから撮影した静止画データを基にして作られた。NHKの放送技術研究所(NHK技研)と奈良放送局で18日に行ったデジタル調査会には、日本彫刻史や仏像を専門にする研究者計6人が参加した。

 その一人である東京国立博物館の皿井舞研究員は「この3DCGモデルは、仏像研究者にとって革新的なものになる」と話す。

 「救世観音像は“門外不出の秘仏”と呼ばれるほど、現地調査の機会も少なく研究資料も多くない。その仏像をあらゆる角度から細部まで、8K画質で再現したものの観察からは、現地調査以上の情報を得られた」(皿井研究員)

 救世観音像は聖徳太子の死の際に作られた等身像とされている。その姿は、年に2回の法隆寺のご開帳の際に、正面からしか観察することはできない。だからこそ、仏像の背中や表面の起伏、眉間にある球体が埋め込まれた“白毫(びゃくごう)”と呼ばれる部分など、細部まで鑑賞できることを可能にした今回のCGモデルは、救世観音像の謎の解明に大きく貢献するという。

眉間にある球体が埋め込まれた“白毫(びゃくごう)”を拡大して観察する様子
救世観音像の背中

 一方で「仏像の生地の成分」のような材質など外見以外の情報は、今回のCGモデルからは得られない。そのため、作成当時の状態を復元するなどのさらなる研究を進めるには「現地調査とかけ合わせるなど、目的に応じて調査手法を使い分ける必要がある」との意見も研究者から挙がった。

 このCGモデルの作成は、NHKと東京国立博物館の共同プロジェクト「8K文化財プロジェクト」の一環として行われた。調査会では、東京のNHK技研と奈良放送局にある「8Kスーパーハイビジョンシアター」にCGモデルを投影し、ゲームエンジン「Unreal Engine 4」を使い、自由に動かすことを可能にした。それぞれのCG操作は、東京と奈良で同期するようになっていて、双方で同じ3DCGの映像を観察することができる。

ゲーム用コントローラーを使い、CGモデルを操作できる

 この共同プロジェクトでは国宝などの文化財をデジタルアーカイブとして残すことで、文化財の新しい価値を探っている。2021年は聖徳太子の没後1400年の節目になることから今回、救世観音像にスポットが当たったという。

【訂正:2021年6月23日 午前11時00分 初出時、NHKとするべき部分をNHK放送技術研究所と誤って表記しておりました。お詫びして訂正いたします】

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.