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大幅にUIが変わる予定のAdobe Premiere Pro 狙いはどこに?小寺信良のIT大作戦(2/4 ページ)

» 2021年06月28日 12時46分 公開
[小寺信良ITmedia]

ワークフローの歴史的変遷

 ここでは煩雑さを避けるため、現行正規バージョンのUIを「現UI」、β版15.4.0.40以降のUIを「新UI」と表記する。

 新UIのポイントは、ワークフローをものすごく簡単に整理したところだろう。9つあったワークスペースは「読み込み」「編集」「書き出し」の3つに整理された。編集に関わる作業は全て「編集」にまとめた格好だ。

photo Premire Proの新UI。表に出ているワークスペースを大幅に減らした

 過去のノンリニア編集ツールはワークスペースを分けていないのが普通だった。だが次第に作業が高度化する中で、専用画面のほうが使いやすいというケースもでてきた。特にデジタルシネマでは必須のカラーグレーディングを行うためには、RGB別のコントローラーを表示し、波形モニターやベクタースコープを表示させて信号を管理しないと、色がいじれない。編集用のUI画面内には、それらのツールを一度に表示するのは無理がある。

 元祖DaVinci Resolveは、編集機能を持たないカラーグレーディング専用ソフトだったわけだが、その専用UIは他のノンリニア編集ソフトに大きな影響を与えていった。Final Cut Proは、必要とあらば専用のワークスペースを選択できるようになっており、合成ツールやバッチレンダラーは外に出した。

photo Final Cut Pro XのUI。ワークスペースを自分で設計したり、プリセットされたものを選択できる

 DaVinci Resolveは、カラーグレーディングのUIを残したままで編集や音声処理機能を追加していったが、これらは別ソフトでも良かったはずだ。なぜならば、ポストプロダクションクラスのワークフローでは、各工程で作業者が変わるのが普通だからである。例えば編集とMAを1人でやるというケースはほとんどない。それらは専門職だからである。

 だがそうなると、1つの作品を仕上げるのに、各ツールでプロジェクトファイルのエクスポート、共有、インポートを繰り返すことになる。各作業の過程でバージョンが分かれていったりすると、ファイルマネジメントが必要になる。

 ポストプロダクションで採用の多いAvidは、高速映像サーバを中心に各ツールがぶら下がり、ファイルマネジメントしながら分業で作業する方向性に進んだ。一方DaVinci Resolveは、1つのソフトウェア内に全ツールを統合することで、ファイルのインポート・エクスポートを不要にした。コンパクトな作業チームであれば、こちらのほうが使いやすい。

 一方Premiere Proはもともとハードウェアに依存しない汎用ソフトとしてスタートしており、アプローチとしては「一人で完結」である。その点ではDaVinci Resolveの方向性に近いが、ユーザーはもうちょっとエントリー側にボリュームがある。

 新UIは、最低限の操作で完パケまで持っていくユーザーのために、表に出すワークスペースを限定したということだろう。従来の専用機能のワークスペースは、ウィンドウメニューから呼び出すようになった。必要な人だけ使えばいいというスタイルである。この点はFinal Cut Proと同じようなアプローチといえるかもしれない。

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