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「推しは等速、他は倍速」 23歳記者から見た“Z世代”の動画視聴(2/2 ページ)

» 2021年06月29日 09時00分 公開
[吉川大貴ITmedia]
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話題についていくためのコンテンツ消費は邪道?

 「話題作りのためだけにコンテンツを消費するなんて」「推しコンテンツが好きな仲間で盛り上がればいいだろう」という声もあるかもしれない。しかし、今はただでさえコロナ禍で「経験の共有」がしにくい時期だ。

 飲み会はおろか、一緒にイベントに行ったり、レジャーに出掛けたりするのは難しい。人と一緒にいることも減ったため「あの人ってこんな性格だよね」とった話題すらない。そうなると、ある程度は動画を共通の話題にせざるを得なくなる。

 こういった経験は筆者にもある。友人間で通話をしていると、知らないYouTuberが話題になる。大して興味はないが、適当な動画を早回しで見ておく。別の機会に友人がまたYouTuberの話をしてきたとき、「そういえばこんな企画もやってたよね」と話を膨らませる──といった具合だ。もし面白ければ、改めて等速で見直すこともある。

photo 友人との会話

 ただ、中には見る動画を推しコンテンツに絞った上でも、早回しで見ざるを得ないという友人もいた。この友人らの推しは、配信者やバーチャルYouTuber。彼ら・彼女らは1日に何時間も配信を行うので、働きながら全てを視聴するには時間が足りないという。

教材の動画化も背景に?

 早回しで動画を見る理由はもう一つある。何かを学ぶのに動画を参考にする機会が増えたためだ。

 例えば筆者は、趣味であるギターの弾き方を本でなく、YouTubeの動画で学んだ。しかし、何かを学ぶために動画を見ようと思うと、冒頭のあいさつやカットインは邪魔だ。ただでさえ記者というせっかちな仕事をするような人間なので、早く本題に入ってほしくてスキップや早回しを使っていた。他にもある女性の友人はヘアアレンジの動画を、一人暮らしの友人は料理の動画を倍速再生するという。

 コロナ禍により、これまでは対面で行われていた講義や研修、趣味の教室がオンライン化した影響もあるかもしれない。何かを学ぶには本より動画が手っ取り早い時代になったが、若者が自由に使える時間は変わらない。

「見る・見ない」の後に「早送りする・しない」の基準

 動画が情報発信の手段として広まった今、見やすいサムネイルやSNSでの共有機能、ユニークなタイトルなど、コンテンツを見てもらうための技術は発達してきている。しかしコンテンツが溢れ、それを見るための時間が不足する現状では「見る・見ない」の後に「早送りする・しない」という基準が生まれているといえる。

 動画というメディアの特性上、仕方がない面もあるだろう。しかし、ただ再生数が稼げればいいのであればさほど支障はないが、しっかり中身を見てほしいというクリエイターや発信元にとっては頭痛の種になり得る。ただ見てもらうだけでなく、全編を余さず鑑賞してほしいと思うなら、これまでとは違う形の工夫が必要になるかもしれない。

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