ITmedia NEWS >

バーチャルイベントはもはや「コロナ禍におけるやむを得ない代替案」ではないウィズコロナ時代のテクノロジー(3/4 ページ)

» 2021年07月05日 10時13分 公開
[小林啓倫ITmedia]

バーチャルイベントの付加価値

 企業がバーチャルイベントを受け入れるようになったのには、もちろん技術やノウハウの向上により、リアル開催と比べて遜色のない体験を参加者に与えられるようになったという点が大きい。

 各種のオンライン配信ツールを活用することで、対面での会話と変わらないコミュニケーションも可能であることは、オンライン会議を日常的に活用されている方には説明するまでもないだろう。また主催者の側も、配信するコンテンツを工夫したり、講演やパネルディスカッションであれば画面切り替えをスムーズに行ったりすることで、PC上での参加であることを感じさせないような努力を行っている。

 一方で、バーチャルイベントならではの付加価値を模索する動きも生まれている。その1つが、デジタル技術の特性を生かした工夫だ。

 2020年8月、AIによる音声からのテキスト書き起こしツールを開発している米Otterが、バーチャルイベントとのコラボレーションサービスを提供することを発表した。Otter for Eventsと名付けられたこのサービスでは、イベント映像内の音声をリアルタイムで認識し、高い精度で文字に変換してくれるというもの。

 視聴者はこれまでに書き起こされたテキストを振り返ったり、検索したりすることができ、スピーカーの発言内容を追いやすくなる。ある意味で、物理的なイベントに参加している場合よりも理解を深めやすいといえるだろう。

photo Otter for Eventsの発表文

 Otterが提供するような文字起こしAIは、既に企業内での導入や、オンライン会議サービスとのコラボレーション(OtterもZoomに機能提供している)が進んでおり、これも自社で経験済みという方が少なくないだろう。英語の書き起こしであれば、かなりの精度が出ていることを実感されているかもしれない。いずれにせよ、デジタルコンテンツはこうしたAIと組み合わせることができ、参加者に対してより優れた体験を実現できる。

 主催者の側にとっても、バーチャルイベントは新たな付加価値をもたらしてくれる。中でも大きいのが、イベントの成果をより正確に分析できるという点だ。

 これはちょうど、チラシやパンフレットといった紙媒体で提供されていた情報が、オンライン化した際に起きたことと似ている。紙の媒体の場合、それを手にした人がちゃんと目を通したのか、またどの部分に注目したのかを把握することは難しい。しかしインターネットの普及と、Webサイト上でのユーザーの挙動を分析する技術の進化により、人々の関心を容易につかめるようになった。

 バーチャルイベントでも、それと同じ状況が起きつつある。先ほどのLinkedInの調査では、対象をEMEA(欧州・中東・アフリカ)地域に広げた結果についても公開されているが、それによると、アンケート回答者のおよそ76%が、生産性の高いイベントを実現する要素について、より洗練された評価が可能になったと答えている。

 物理的なイベントでは、大規模であればあるほど、その中で参加者がどう行動したか、どのような出展に関心を示したかを把握することが難しい。しかしバーチャルイベントであれば、規模に関係なく、参加者の振る舞いを正確につかめる。今後、より分析手法が洗練されれば、参加者それぞれに合わせたフォローなども可能になるだろう。

 B2Bマーケティングを手掛ける米Scratch M+Mのローラ・クラチャウノバという人物が、面白い指摘を行っている。オンライン見本市の出展者(見本市内でブースを出展する企業)に対するアドバイスなのだが、自社のブースに来た来場者と会話を始める前に、彼らの名前や所属企業、役職を確認できるため、応対のエネルギーを無駄にしなくて済むというのである。

 要は冷やかし客や、自社の製品を購入できるほどの権限を持たないと思われる客を事前に把握できるため、彼らに長い時間を割かなくて済むようになるというわけだ。

 見込みのない客に手間をかけない、といってしまうと身も蓋もないが、相手の属性や傾向を正確につかんだ上で応対できるというのは、バーチャルイベントならではの付加価値といえるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.