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「量子コンピュータはスパコンより速い」のウソと本当 日本設置の意義は(2/3 ページ)

» 2021年07月30日 08時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

 Googleが研究成果として発表したのは、「ランダム量子回路のサンプリング」という特定の計算だった。これは「スパコンにとってはめちゃくちゃ苦手だが、量子コンピュータにとってはめちゃくちゃ得意」という問題設定にしたら量子コンピュータが勝った、という話だ(ちなみにその後、この問題はスパコンでも2日半程度で解けるとIBMが反論している)。

 つまり、理化学研究所のスパコン「富岳」がやっているような新型コロナの飛沫シミュレーションや、AWSなどの巨大なクラウドサーバが日々さばいている各種の演算を、現在の量子コンピュータが超高速で計算できると分かったわけではない。それでも、量子コンピュータの得意領域で量子コンピュータがスパコンに勝てたのはすごいことではあるのだが。

 Googleの論文の査読に携わった、大阪大学の藤井啓祐教授も「次はスパコンでも1万年かかる量子計算を富岳で1ミリ秒とか出てくるんですかね」と認識の危うさを指摘している。

それでも量子コンピュータの日本設置が重要なワケ

 この量子コンピュータの日本設置は、東大が産官学連携の協議会を作りつつ、旗振り役となって実現したものだ。27日の稼働開始の発表会には東大の藤井輝夫総長、慶應大の伊藤公平塾長、萩生田光一文部科学大臣、日本アイ・ビー・エムの山口明夫社長、みずほフィナンシャルグループの佐藤康博会長など、産官学のそうそうたるメンバーがそろった。

 スパコンより速いわけではないのなら、なぜ量子コンピュータの設置にこれほどのメンバーが取り組んでいるのか。

 これは「理想的な量子コンピュータ」ができれば、スパコンでも解けない問題が解けるようになることが理論的に示されており、他にもそのような計算があるのではないかと期待されているからだ。

 最も有名な量子アルゴリズムの一つが、因数分解を効率的に行える「ショアのアルゴリズム」だろう。現代の暗号の一つである「RSA暗号」は、十分大きな素数同士の積を因数分解するのは(従来のアルゴリズムや計算機では)不可能という前提で使われているが、「理想的な量子コンピュータ」でショアのアルゴリズムを実行すればこの前提を破れる可能性がある。

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