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五輪開会式のドローン演出、どんな仕組みで実現? 提供元のIntelに聞く(2/3 ページ)

» 2021年07月30日 16時13分 公開
[樋口隆充ITmedia]

空中でのデザイン表現に制約は「ない」 当日の天候もシミュレーション

 大量のドローンをどのように運用するのか。松田さんは「開会式の内容に直接関係することは契約上、お話しできない」という。このため、これ以降の内容は一般的なケースの話となるが、答えられる範囲で話してもらった。

 一般的なパフォーマンス披露までの流れでは、まず本番数カ月前に顧客からパフォーマンスしたい内容をヒアリングし、社内のクリエイターチームが専用ツールでアニメーション動画を作成。そのデータを取り込み、ドローンの飛行をシステム上でシミュレーションする。空中で表現できるイラストの制約について、松田さんは「Intel独自の技術でカバーしているため、(制約が)あるようでない。今のところ、デザイン面での難題には直面していない」と話し、事実上どんなデザインでも表現できることを明かした。

photo 取材に応じる、松田貴成オリンピック・プログラム・オフィス テクニカル・ディレクター

 屋外で複数のドローンを使うドローンパフォーマンスでは、天候や風速など気象条件の予測が欠かせない。シミュレーターでは気象庁の予報や過去の気象データに加え、同社独自に取得したデータなどから当日の天候を予測し、パラメータとして採用。離陸時に発生する風が隣の機体に影響する可能性も考慮したシミュレーションを行い、各機体の飛行ルートを決める。

天候次第では中止の可能性もあった

 シミュレーション結果を顧客に見せ、合意を得ると、次は離着陸場所の設置など現場でのオペレーションを実施。全ドローンの制御は複数のPCで行うが、故障やハッキングなどのリスクを考慮し、自動バックアップの仕組みも構築する。1週間前からは天候も入念にチェックし、当日に備える。

 当日はドローンの故障箇所やバッテリーの状態などを専用システムで一括管理しつつ、人の目による最終チェックを行い、時間になるとドローンを一斉に飛ばす。ドローンにはGPSとAIを搭載しており、突発的な強風などで当初の飛行ルートから外れた場合は、ドローンが天候を考慮した飛行ルートに自動で切り替えたり、位置補正技術で機体同士の距離間をキープしたりするなどして、機体同士の衝突を回避する。

 屋外という特質上、天候に左右されるドローンの飛行。松田さんによると、開会式当日が強風や豪雨などの悪天候ならば、最悪の場合、演技中止の可能性もあったという。このため「天候は毎日のようにチェックしていた」という。当日は小雨が降っていたが「この程度であれば支障はない」と判断。ドローンを一斉に飛ばし、実演につなげた。

 松田さんは開会式の演技を振り返り「組織委員会の演出チームの思いが詰まったデザインをIntelのドローンで皆さんにお届けできたことを大変誇りに思う」とし「今後もパフォーマンス領域でのドローン活用を推進していきたい」と話した。

photo ドローンを持つ松田さん

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