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「作業データ消失」の悲劇を防ぐ 大切なPCを停電から守るリモートワークの“備え”

» 2021年08月23日 08時30分 公開
[荒岡瑛一郎ITmedia]

 ビデオ会議というのは、PCにとって意外に負荷が大きいタスクだ。送受信する動画の最適化やプレゼンテーション機能などを同時にこなすため、テレワーク用に貧弱なノートPCよりも性能が高いデスクトップPCを選ぶ人がいる。だが、そんなデスクトップPCにも弱点がある。停電だ。

 テレワークの最中、停電でPCがシステムダウンして作業中のデータが吹っ飛んだ――こんな最悪の事態は何としても防ぎたい。対策の一つが、接続した電子機器に一時的に電力を供給してデータを保存する時間を稼ぐ無停電電源装置(Uninterruptible Power Supply、UPS)だ。

 電源コンセントに接続したUPSに、PCなど電子機器のプラグを挿して使う。平常時はUPS内の蓄電池を充電し、停電時には数分から数時間分の電力を供給する。もともとはデータセンターや企業のサーバを停電被害から守るための装置だ。

取材に応じるIIJの堂前清隆副部長(広報部 技術広報担当)

 データセンター管理などエンジニアとして開発を経験し、UPSにも詳しいインターネットイニシアティブ(IIJ)の堂前清隆副部長(広報部 技術広報担当)は「家で仕事をするようになり、日常生活とは違うものを守る必要が出てきた。家庭でUPSを使うには“何を守るか”の優先度を決めないと役に立たなくなる」と話す。

停電がデータ破損の原因に デスクトップPCやHDD/SSDを守る

 デスクトップPCや外付けHDD/SSD、HDD/SSDをネットワーク接続して使うNAS(Network Attached Storage)などは、正規の手順でシャットダウンしないとデータや機器自体が破損する可能性がある。バッテリーを内蔵したノートPCと違い、数秒の停電でも被害につながるという。

 数秒の停電ならUPSからの給電で問題なくやり過ごせる。しかしPCやNASの消費電力は数十ワットから数百ワットあるため、家庭用のUPSでは数分しか電力供給できない。災害時など停電が長時間にわたると予想できるときは、UPSからの給電中にシャットダウン操作をする必要がある。データを安全に保存し、PCを正しく終了させるための時間をUPSによって稼ぐのだ。

堂前清隆副部長がUPSに接続している機器

 守るべき機器はPCだけではない。デスクトップPCだけ保護しても画面が映らないと操作できないため、ディスプレイやマウスなどシャットダウン操作に必要な機器も保護する必要がある。

ルーターは電源がないと通信できず 通信を守る

 リモートワークの場合、データだけでなく通信を維持することも必要だ。堂前副部長は「テレワークが定番化したから、自宅にも光回線を引く人が増えた。(UPSの使い方として)通信を守るという考え方につながる」と指摘する。

 ホームゲートウェイやルーターは電源が切れたら動かない。光回線とセットで契約することが多いIP電話「ひかり電話」も停電時には通じなくなるため、緊急連絡先に設定している人は注意が必要だ。

 ルーターなど通信機器の消費電力は約10〜20ワットほどで、UPSに接続すれば数時間は通信が確保できるという。給電可能な時間は、UPSメーカーの製品情報ページで消費電力当たりの給電時間を事前に確認する必要がある。

 通信を守る目的なら、モバイルバッテリーでも対応できる。ただし「UPSは常時充電しているが、モバイルバッテリーは事前の充電や緊急時に機器のプラグを挿し替える手間がかかる」(堂前副部長)という弱点がある。

UPS導入の落とし穴、数年ごとにランニングコスト発生

 UPS購入後はバッテリーの経年劣化に合わせて数年ごとにバッテリーを交換する必要がある。しかもそのバッテリーは鉛蓄電池なので、ごみ回収時にも注意が必要だ。

 テレワークの普及により、自宅で管理するデータを守る必要性が高まったり、通信手段や連絡手段が途切れると困ったりする人も多いだろう。UPSを候補の一つにしつつ、突然の停電に備えて優先的に守るデータや通信を再確認して、それらを守る手段を考えてみてはどうだろうか。

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